障害年金を申請しても不支給の結果になってしまう割合はどのくらいなのでしょうか?
申請には手間も費用もかかりますので、せっかく申請したのに不支給になることは避けたいですよね。
今回は、不支給率についての統計結果や、不支給率の地域間の格差の問題についてご説明し、不支給になる2つのパターンをご紹介します。
実は不支給になるケースの大半は、大きく分けるとたった2種類です。
また、事前に必ずおさえておいてほしい、不支給にならないための申請上の注意点についてもご説明します。
それでは見ていきましょう。
目次
1 障害基礎年金の不支給率は15%
障害年金の不支給率については、少し古い統計ですが、平成24年度の統計があります。
それによると、障害基礎年金については全体の15%が不支給となっています。
参考:障害基礎年金とは?
障害基礎年金とは障害年金の種類の1つです。障害年金には主に障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があります。
初診日(障害の原因となった病気やけがで最初に通院した日)にあなたがどの年金制度に加入していたかによって、あなたが2種類のうちどちらを請求するべきかが、以下のように決まります。
- あなたが初診日に国民年金に加入していた場合:障害基礎年金の請求ができます。
- あなたが初診日に厚生年金に加入していた場合:障害厚生年金の請求ができます。
監修者:「西川 暢春」からのワンポイント解説!
関連情報として、障害年金基礎年金と障害厚生年金についての基礎知識を以下の記事で解説しています。参考にご覧ください。
1-1 障害の内容別の不支給率
障害の内容別に見ると、障害基礎年金の不支給率は以下の通りです。
障害基礎年金の不支給率
精神障害・知的障害 | 12.1% |
肢体の障害(手足の障害) | 16.8% |
内部障害(腎疾患、肝疾患、心疾患、肺疾患、糖尿病、がんなど) | 28.1% |
外部障害(眼や聴覚の障害など) | 12.3% |
このように内部障害(腎疾患、肝疾患、心疾患、肺疾患、糖尿病、がんなど)については他の障害と比べて不支給率が高くなっています。
2 障害厚生年金の不支給率
以上ご説明したのは、障害基礎年金の不支給率です。障害年金のもう1つの種類である障害厚生年金の不支給率については、残念ながら統計がありません。
そのためあくまで推測になりますが、障害基礎年金の15%よりも不支給率は低いと推測されます。
これは、障害基礎年金については1級、2級のいずれかに該当しなければ支給されないのに対して、障害厚生年金はより軽い障害である3級であっても支給されるからです。
障害厚生年金のほうが障害基礎年金よりも不支給になりにくい仕組みになっているといえます。
3 不支給率の地域差問題は解決済み
2015年に都道府県によって、障害基礎年金の不支給率に格差(地域差)があることが問題になりました。
これは、障害基礎年金の審査が各都道府県の事務センターにおいて審査されており、全国で審査基準が統一されていなかったことが原因です。
しかし、この点については、2017年4月に制度が変更されました。
制度変更後は、各都道府県の年金事務所が受け付けた障害年金の申請はすべて東京に送付され、すべての審査を東京にある日本年金機構障害年金センターで行うことになりました。
そのため、現在は不支給率の地域差という問題はありません。
なお、過去の都道府県ごとの不支給率の地域差について確認したい方は、以下のページをご参照ください。
一方、障害厚生年金については、以前から、すべての審査が東京で行われており、もともと不支給率の地域差はありません。
4 不支給になるパターンは主に2つ
では、障害年金が不支給になる原因としてはどのようなものがあるのでしょうか?
主な原因は次の2つです。
パターン1:
障害の程度が軽いと判断されるケース
障害年金が不支給なる主なパターンの1つ目は、障害の程度が基準よりも軽いと判断されるケースです。
障害年金の制度では申請者の障害の内容を重い順から1級、2級、3級にわけ、それぞれ基準を設けています。
そして、障害基礎年金については1級と2級に該当した場合のみ、障害厚生年金については1級、2級あるいは3級に該当した場合に、障害年金が支給されます。
そのため、障害の程度が軽いと判断されて、障害基礎年金の申請について3級程度だと判断されたり、あるいは障害厚生年金の申請で3級の基準にも該当しないと判断された場合は、不支給となります。
主な病気やけがについてどのような場合に何級になるのかについては以下の記事で詳しく解説していますのでご確認ください
。
精神疾患・てんかん・知的障害 | |
脳の障害 | |
目や耳の疾患 | |
呼吸器や心臓の疾患 | |
身体の障害 | |
腎臓疾患 | |
肝臓疾患 | |
がん |
上記以外の病気やけがについては以下を参考にしてください。
パターン2:
初診日の証明ができていないと判断されるケース
障害年金が不支給になる主なパターンの2つ目は、初診日の証明ができていないと判断されてしまうケースです。
障害年金の申請が認められるためには、初診日(障害の原因となった病気やけがで最初に通院した日)を資料に基づいて証明することが制度上必要です。
これは、障害年金の請求のためには、初診日より前に一定以上の年金を納付していたことが必要であり、その判断のために初診日を特定する必要があるからです。
そして、初診日の証明は申請者の責任で行わなければなりません。初診日を証明する資料が提出できない場合は、障害年金の請求が不支給になってしまうのです。
監修者:「西川 暢春」からのワンポイント解説!
関連情報として、初診日についての基礎知識を以下の記事で解説しています。参考にご覧ください。
5 不支給にならないための申請上の注意点
不支給にならないためには申請にあたって以下の点に注意しましょう。
5-1 診断書を正しく記載してもらう
障害年金の申請では、医師に書いてもらう診断書は非常に重要です。
不支給になる主なパターンの1つとして障害の程度が軽いと判断されるケースがあることをご説明しましたが、診断書の不備がその原因となるケースも多いです。診断書の記載にあたっては以下の点が特に重要です。
正しい条件での検査結果を記載してもらう
障害年金の申請では、診断書に検査結果を記載し、その内容が重要な意味を持つことがあります。この場合、正しい条件での検査結果を記載してもらうことが必要です。
たとえば、ぜんそくで障害年金を申請する場合、障害年金の診断書では「酸素吸入中の検査結果の数値を書く欄」と、「酸素吸入していない状態での検査結果の数値を書く欄」が別になっています。
これを間違えて、酸素吸入していない状態での検査結果の数値を書く欄に、酸素吸入中の検査結果の数値を書いてしまうと、本来の症状よりも軽い症状と受け取られてしまい、不支給の原因になります。
このように、障害年金の診断書で検査数値を書く欄には、「このような条件のもとでの検査数値を書いてください」ということがすべて決まっていますので、正しい条件での検査数値を書かれているか十分注意してください。
このような点に無頓着な医師も多いので、できあがった診断書は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に確認してもらうことをおすすめします。
日常生活や仕事への支障を正しく記載してもらう
障害年金の申請では、検査数値だけでなく、障害による日常生活や仕事への支障の程度も重視されます。
特に精神疾患での申請の場合や、肝疾患、心疾患などでの申請の場合は、この点が重要になります。
あなたが日常生活や仕事でどんな苦労をしているか、どんな問題が生じているかは主治医も十分把握していないことが多いと思います。
診断書を依頼する際は、事前に書いてほしいことをメモでまとめておくなどして、主治医に日常生活や仕事への支障の内容について正しい記載をしてもらうことが必要です。
また、診断書が出来上がった際は、必ずその内容を確認して、あなたの日常生活や仕事での状況が正しく記載されているかチェックしてください。
5-2 病歴・就労状況等申立書を適切に作成する
障害年金の申請で、重要になるもう1つの書類が「病歴・就労状況等申立書」です。
「病歴・就労状況等申立書」の書式はこちらになりますのでご使用ください。
障害の程度が軽いと判断されて不支給にならないためには、この「病歴・就労状況等申立書」に障害の内容や日常生活への支障、仕事への支障について、詳しく記載することが重要になります。以下の点に注意して記載しましょう。
3~5年ごとに区切って記載する
「病歴・就労状況等申立書」には、発病したときから現在までの経過を3~5年に区切って記載することが必要です。
下記をご参考にしていただき、具体的に記入してください。
受診していた期間について | ・どのくらいの期間、どのくらいの頻度で受診したか |
・入院した期間やどんな治療をして、改善したかどうか | |
・医師から言われていたこと | |
・日常生活状況 (具体的にどんな症状があって、どう困っていたか。) |
|
・就労状況 (週に何日、1日何時間働いているか。仕事中や仕事後に体調に変化があれば記入する。病気のために生じている仕事の制限や職場での配慮があれば記入する。) |
受診していなかった期間について | ・受診していなかった理由 (自覚症状がなかった、経済的に行けなかった等) |
・自覚症状の程度 (いつどんな症状がどの程度あったか。) |
|
・日常生活状況 (普段通りではなかったことがあれば記入する。) |
|
・就労状況 (病気によって仕事に支障がでていたか等を記入する。) |
診断書と矛盾がないように注意する
病歴・就労状況等申立書作成にあたり、注意していただきたいもう1つの点が「診断書の内容との間に矛盾がないか」という点です。
例えば、診断書で「単身で生活することを想定した場合、適切な食事ができない」と書かれているのに、病歴・就労状況等申立書で一人暮らしをしていることが書かれていると診断書との矛盾が生じてしまいます。
診断書の矛盾が不支給の原因になることがありますので、病歴・就労状況等申立書に記載する内容が診断書の内容と矛盾していないかよく確認することが必要です。
5-3 初診日を証明する資料をできる限り集めて提出する
不支給にならないためには、障害の程度だけでなく、初診日の証明にも気をつける必要があります。
初診日の証明ができていないと判断されて不支給にならないように、初診日を証明する資料をできる限り集めて提出することが重要です。
この点、あなたが初診日に通っていた病院にカルテが残っている場合は、その病院に証明書を記載してもらうことで、証明することができます。
しかし、もし、あなたが初診日に通っていた病院が廃院になっていたり、カルテが残っていない場合は、この方法で初診日を証明することができません。
その場合は、過去の健康診断の記録や初診日当時に通っていた病院の診察券を資料として提出したり、あるいは第三者の証言により初診日を証明することが必要です。
6 不支給になってしまった場合の対応方法
次に、残念ながら不支給になってしまった場合の対応についても触れておきたいと思います。
障害年金の不支給決定をくつがえすためには、以下の2つの方法があります。
- 不服申し立てをする方法(審査請求、再審査請求と呼ばれます)
- 再申請する方法
不服申し立てをする方法は、不支給の決定が不当であることを主張して不支給決定の見直しを求める方法です。これに対して、再申請する方法は、また一から資料をそろえて再度申請しなおす方法です。
不支給になった場合は、この2つの方法を同時並行で行うことが最も効果的です。
具体的な進め方については、以下の記事で詳しく書いていますので、ご参照ください。
監修者:「西川 暢春」からのワンポイント解説!
関連情報として、障害年金の不服申し立て(審査請求・再審査請求)についての基礎知識を以下の記事で解説しています。参考にご覧ください。
▶参考情報:障害年金の不支給決定!くつがえして支給をうけるための2つの方法
7 確実に受給したいときは社労士や弁護士への依頼がおすすめ!
自分で申請をすることに不安があるときは、専門家である弁護士や社会保険労務士に障害年金申請の代行を依頼することもおすすめです。
専門家に依頼すれば、以下のようなメリットがあります。
- 障害年金を申請して通りそうかどうか事前に相談できる。
- 医師に記載してもらった診断書に問題がないか専門家のチェックをうけることができる。
- 病歴・就労状況等申立書の作成を依頼できる。
- 初診日を証明する資料を集めることについてもサポートを依頼できる。
- 申請方法の選択ミスや書類上のミス、資料の不足などによる不支給を避けることができる。
専門家に依頼することは費用がかかりますが、最初の相談は無料のところが多くなっています。
また、依頼費用についても、申請が成功した場合だけ費用が発生する成功報酬型の事務所が増えていますので、ぜひ検討してみてください。
専門家による相談や申請代行については以下の記事で詳しくご説明していますのであわせてご参照ください。
▶参考情報:障害年金を社労士に相談や依頼をする方法は?わかりやすく解説!
▶参考情報:障害年金に関する社労士費用ってどれくらい?必要な費用と相場を解説!
▶参考情報:障害年金を弁護士に依頼する6つのメリットと正しい選び方!
▶参考情報:障害年金に強い社労士をお探しの方はこちら
8 まとめ
今回は、障害年金の不支給率と地域差の問題についてご説明したうえで、不支給になるパターン2種類をご説明しました。
そのうえで、不支給にならないで申請を成功させる方法と、万一不支給になってしまった場合の対応方法もご紹介しています。
正しい対応方法を知ったうえで、不支給決定をおそれすぎずに障害年金の申請をすすめていきましょう。
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