ペースメーカーの装着によって日常生活を問題なく過ごせる程度に回復したとしても、運動の制限や定期的なメンテナンス等、仕事や日常生活への制限は発生するものです。
そんな時、生活を支えてくれる制度のひとつに障害年金があります。今回は、ペースメーカーを装着した場合の障害年金の認定基準についてご説明します。
1 ペースメーカーを装着していると障害年金を受給できる!
ペースメーカーを装着している場合は、原則として障害年金の3級以上に認定されます。
詳しい基準をご説明する前に、まず、障害年金の制度について簡単にご説明します。
障害年金とは・・・?
原則、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日といいます)から1年6ヶ月後から受給することができます。
障害年金には初診日に加入していた年金制度に応じて2つの種類があります。
障害基礎年金 |
<支給対象> 〇病気やケガのために初めて病院を受診した日の加入年金制度が国民年金の方 ・自営業、アルバイト、学生等 ・厚生年金加入者の配偶者(第3号被保険者) ・20歳より前に初診日があり年金に加入していなかった方(先天性疾患等) <年金額> 1級 年間97万4125円(月 8万1177円) 2級 年間77万9300円(月6万4941円) |
障害厚生年金 |
<支給対象> ・初診日に厚生年金に加入していた方 ※20歳より前に初診日があっても、厚生年金に加入していれば障害厚生年金の対象者です。 <年金額> 1級 報酬比例の年金額×1.25+障害基礎年金1級(年間97万4125円) 2級 報酬比例の年金額+障害基礎年金2級(年間77万9300円) 3級 報酬比例の年金額(最低保障額 年間58万4500円) |
障害基礎年金では日本年金機構の定める障害等級1級又は2級に認定された方に、障害厚生年金では1級から3級に認定された方に障害年金が支給されます。
障害年金を受給するためにはおおまかにいうと2つの条件を満たしている必要があります。
(1)初診日の前日時点で、初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること。 若しくは、初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと。【保険料の納付要件】
(2)障害の程度が日本年金機構の定める基準に該当していること【障害の程度の要件】 |
(1)の保険料の納付要件を満たしていなければ、どんなに症状が重くても障害年金を受給することはできません。自分が納付要件を満たしているかは、お近くの年金事務所で確認することができます。
納付要件を満たしていることがわかれば、次に重要なのは(2)の障害の程度の要件です。初診日に国民年金に加入していた方は1級又は2級、厚生年金に加入していた方は1~3級のいずれかに認定される必要があります。
2 ペースメーカーの認定基準
障害年金では、装着しているペースメーカーの種類によって「この種類であれば〇級相当」と基準が設けられています。これを障害年金の認定基準と言います。
一般的に、心疾患の治療に用いられる植込み型の医療機器を総称してペースメーカーと呼ばれています。
しかし、一概にペースメーカーとは言ってもいくつかの種類があり、装着しているペースメーカーの種類によって認定基準が異なってくるので注意が必要です。
この記事では植込み型医療機器の総称としてのペースメーカーと植込み型医療機器の一種としてのペースメーカーを区別するため、植込み型医療機器の一種を心臓ペースメーカーと表記します。
まずは、自分の装着しているペースメーカーの種類を確認してください。ペースメーカーの種類がわからない場合は、担当の医師に問い合わせたり、手術を受けた際の資料に記載がないか探してみてください。
認定基準によるとペースメーカーの種類と該当する障害年金の等級は以下のとおりです。
等級 | ペースメーカーの種類 |
2級 | ・CRT(心臓再同期医療機器) ・CRT-D(除細動器機能付心臓再同期医療機器) |
3級 | ・心臓ペースメーカー ・ICD(植込み型除細動器) |
以下で詳しくご説明します。
2-1 CRT若しくはCRT-Dの場合
装着しているペースメーカーがCRT若しくはCRT-Dの場合は、原則2級に認定されます。
そのため、納付要件さえ満たしていれば、障害基礎年金(初診日に国民年金に加入していた方)、障害厚生年金(初診日に厚生年金に加入していた方)のどちらでも障害年金を受給することができます。
2-2 心臓ペースメーカー若しくはICDの場合
注意が必要なのが、心臓ペースメーカー若しくはICDを装着している場合です。装着しているペースメーカーが心臓ペースメーカー若しくはICDである場合、原則3級に認定されます。
障害厚生年金の場合は3級でも障害年金が支給されますが、障害基礎年金の場合は3級だと障害年金が支給されません。
心臓ペースメーカー若しくはICDを装着している場合は、ペースメーカーの装着後も心電図やX線検査で不整脈や心臓のポンプ機能の異常等が確認されており、かつ、日常生活へ支障が生じる程度の症状が出ている場合のみ、2級以上に認定される可能性があります。
心疾患の診断書では、日常生活への支障の程度を5つの段階に分けて示した「一般状態区分」という項目があります。心臓ペースメーカー若しくはICDの装着で2級以上に認定されるためには、少なくとも以下の区分のうち「ウ」「エ」「オ」のいずれかに該当する必要があります。
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起きているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
3 知っておきたい3つのポイント
3-1 働いていても受給できる!
障害年金では等級認定の判断基準のとして「日常生活や仕事への支障の程度」が重視されています。
ペースメーカーを装着している方の場合は、装着後、職場に復帰したり、問題なく日常生活を送ることができている、という方も少なくありません。そのため、仕事に復帰しているから障害年金をもらえないのではないかと不安に思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、ペースメーカーを装着している場合は、もちろん日常生活や仕事への支障の程度も考慮されますが、あくまでもペースメーカー装着の有無が重視されているため、仕事ができているからと言って認定されないということはほとんどありません。
実際にフルタイムの勤務をしながら障害年金を受給している方もたくさんいらっしゃいます。ただし、次にご説明する障害年金の更新時は注意が必要です。
3-2 更新時は要注意!
障害年金の受給者には、受給後、数年毎に診断書の提出が義務付けられています。
提出した診断書を元に障害の程度について審査が行われ、等級の見直しが行われます。
2章で、ペースメーカーを装着している場合は原則2級若しくは3級に認定されるとご説明しましたが、更新のときは必ずしもこのとおりの等級に認定されるとは限りません。
障害年金の認定基準には以下の通り記載されています。
『1~2年経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分を勘案し、障害等級を再認定する』
つまり、装着後、数年たって症状が安定している場合は等級が下がってしまい、結果的に障害年金が支給停止になることもありえるのです。
もちろん仕事や日常生活に支障がなく、障害年金を受給しなくても困らないということであれば問題ありませんが、仕事や日常生活に支障が出ているのに支給停止になってしまっては大変です。
そのため、更新の際の診断書は、各種検査結果はもちろん、臨床症状や日常生活への支障についてきちんと記載されていることが重要になります。
もし、医師が作成した診断書の内容だけでは、仕事や日常生活への支障が十分に記載されていないと感じる場合は、日常生活への支障を記載した申立書を添付して提出することもひとつの方法です。
万が一、支給停止になってしまったとしても、審査請求や支給停止の解除を求める手続きもあります。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
『障害年金が停止されるケースと停止したいときの2つの申し出方法』
3-3 ペースメーカーを装着した日から障害年金を請求できる!
障害年金は通常、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日)から一定期間を経過しなければ、障害年金を請求することができません。この期間は原則1年6ヶ月と定められており、1年6ヶ月経過した日のことを「障害認定日」と言います。
この、障害認定日には一部例外があり、ペースメーカーもその例外のひとつです。
ペースメーカーを装着した場合は、病気のために初めて病院を受診した日から1年6ヶ月が経過していなくも、ペースメーカーを装着したその日から障害年金を請求することができます。(ただし、ペースメーカーを装着した日が、初診日から1年6ヶ月よりも後だった場合は、1年6ヶ月経った日から障害年金を請求することができます。)
カルテの保管期限は一般的に5年のため、申請が遅くなればなるほど、請求が難しくなったり、本来もらえるはずの年金がもらえなくなる可能性が高まります。
ペースメーカーを装着したらすぐに障害年金を請求しましょう。
4 まとめ
今回は、障害年金におけるペースメーカーの認定基準についてご説明しました。
ペースメーカーを装着している場合、CRT若しくはCRT-Dを装着している場合は原則2級、心臓ペースメーカー若しくはICDを装着している場合は原則3級に認定されます。
障害年金は2級に認定されれば少なくとも年間77万9300円、3級に認定されれば少なくとも年間58万4500円が支給されます。障害年金があるかないかで生活は大違いです。しっかりポイントを抑えた申請をして障害年金を受給しましょう。
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