ゼェゼェ、ヒューヒューと音が鳴る喘鳴(ぜいめい)や、夜にひどくなる喘息(ぜんそく)の症状でも、治療しているにも関わらず症状が1年6ヶ月以上続いているようであれば、障害年金を受給できる可能性があります。
障害年金は年金制度の1つで、日常生活のほとんどの場合に補助が必要であったり、仕事ができない状態の方が対象です。
今回の記事では、障害年金の制度の簡単な説明と、どの程度の症状であれば受給できるのかについて詳しくご説明いたします。
1 喘息でも障害年金を受給できる!
喘息でも日常生活や仕事に支障がある場合は、障害年金の支給対象です。
ただし日本年金機構の定める一定の基準を満たしている必要があります。
まずは障害年金の制度について、簡単にご説明します。
障害年金とは・・・?
原則、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日といいます)から1年6ヶ月後から受給することができます。
(初診日から1年6ヶ月経過する前に在宅酸素療法を開始した場合は、在宅酸素療法を開始した日から受給することができます。)
障害年金には初診日に加入していた年金制度に応じて2つの種類があります。
障害基礎年金 |
<支給対象> 〇病気やケガのために初めて病院を受診した日の加入年金制度が国民年金の方 ・自営業、アルバイト、学生等 ・厚生年金加入者の配偶者(第3号被保険者) ・20歳より前に初診日があり年金に加入していなかった方(先天性疾患等) <年金額> 1級 年間97万4125円(月 8万1177円) 2級 年間77万9300円(月6万4941円) |
障害厚生年金 |
<支給対象> ・初診日に厚生年金に加入していた方 ※20歳より前に初診日があっても、厚生年金に加入していれば障害厚生年金の対象者です。 <年金額> 1級 報酬比例の年金額×1.25+障害基礎年金1級(年間97万4125円) 2級 報酬比例の年金額+障害基礎年金2級(年間77万9300円) 3級 報酬比例の年金額(最低保障額 年間58万4500円) |
障害基礎年金では日本年金機構の定める障害等級1級又は2級に認定された方に、障害厚生年金では1級から3級に認定された方に障害年金が支給されます。
障害年金を受給するためには、おおまかにいうと2つの条件を満たしている必要があります。
(1)初診日の前日時点で、初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること。 若しくは、初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと。【保険料の納付要件】
(2)障害の程度が日本年金機構の定める基準に該当していること【障害の程度の要件】 |
(1)の保険料の納付要件を満たしていなければ、どんなに症状が重くても障害年金を受給することはできません。自分が納付要件を満たしているかは、お近くの年金事務所で確認することができます。
納付要件を満たしていることがわかれば、次に重要なのは(2)の障害の程度の要件です。初診日に国民年金に加入していた方は1級又は2級、厚生年金に加入していた方は1~3級のいずれかに認定される必要があります。
どのくらいの症状であれば何級相当なのか、おおまかに示すと以下のようになります。
1級 | 症状のため日常生活が一人では困難で、活動範囲がおおむね寝室や病室に限られる状態 |
2級 | 症状のため日常生活が一人では制限があり、活動範囲がおおむね自宅内に限られる状態 |
3級 | 症状のため日常生活や労働に制限がある状態 (障害厚生年金の場合のみ支給されます) |
ただし年金機構では障害年金の等級判定に関する認定基準を詳しくもうけています。
ここからは喘息、呼吸器の障害の認定基準について詳しくご説明します。
2 喘息の認定基準
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
1級 | 最大限の薬物治療をおこなっても発作強度が大発作となり、無症状の期間がなく一般状態区分表のオに該当する場合であって、予測肺活量1秒率が20%以下(測定不能を含む)、かつ、動脈血ガス分析値が【動脈血酸素分圧が55Torr以下または動脈血炭酸ガス分圧が60以上】で常に在宅酸素療法を必要とするもの |
2級 | 呼吸困難を常に認める。常時とは限らないが酸素療法を必要とし、一般状態区分表のエまたはウに該当する場合であって、プレドニゾロンに換算して1日10mg相当以上の連用、または5mg相当以上の連用と吸入ステロイド高用量の連用を必要とするもの |
3級 |
喘鳴や呼吸困難を週1回以上認める。非継続的なステロイド薬の使用を必要とする場合があり、一般状態区分表のウまたはイに該当する場合であって、吸入ステロイド中用量以上および長期管理薬を追加薬として2剤以上の連用を必要とし、かつ、短時間作用性吸入β2刺激薬の頓用を少なくとも週に1回以上必要とするもの 在宅酸素療法を24時間使用していて、かつ軽易な労働以外の労働に支障があるもの 慢性肺疾患により非代償性の肺性心を生じているもの (肺疾患が原因で心臓に異常が起きているもの) |
喘息(気管支喘息)の認定基準です。薬で抑えることができる場合は認定されません。
肺活量や血液検査の結果など、主治医に確認してみないとわからないことが多いと思いますので、以下の一般区分状態表で等級の目安をつけていただき、該当するか主治医に確認してみると良いでしょう。
一般状態区分表
一般状態区分表は、日常生活や労働においてどの程度の支障がでているかを判断する指標です。診断書にも記載があります。
この表はあくまでも等級判断の目安であり、実際には血液検査結果や治療内容などで総合的に判断されます。
区分 | 一 般 状 態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要な事もあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居(立ったり座ったりの生活を)しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床をしなければならず、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
ただし喘息の認定基準では該当しなくても、呼吸不全の認定基準で該当すれば、障害年金を受け取ることができます。続いて呼吸不全の認定基準をご説明します。
3 呼吸不全の認定基準で認定されることも!
呼吸不全とは、酸素の取り込みや二酸化炭素の排出が通常より困難になっている状態を指します。
一般的には間質性肺炎、肺水腫、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、肥満低換気症候群などが呼吸不全にあたるといわれています。
また、喘息の症状に加えて肺気腫(COPD)、肺線維症、じん肺が認められる場合は、呼吸不全の基準で認定されます。
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
1級 | 予測肺活量1秒率が20%以下(測定不能を含む)、または動脈血ガス分析値が【動脈血酸素分圧が55Torr以下または動脈血炭酸ガス分圧が60以上】が認められ、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 | 予測肺活量1秒率が30~21%、または動脈血ガス分析値が【動脈血酸素分圧が60~56Torrまたは動脈血炭酸ガス分圧が51~59Torr】が認められ、かつ、一般状態区分表のエまたはウに該当するもの |
3級 |
予測肺活量1秒率が40~31%、または動脈血ガス分析値が【動脈血酸素分圧が70~61Torrまたは動脈血炭酸ガス分圧が46~50Torr】が認められ、かつ、一般状態区分表のウまたはイに該当するもの (障害厚生年金の場合のみ支給されます) |
呼吸不全の認定基準にも検査結果が含まれているため、上記の表だけでは判断しにくいかもしれませんが、一般状態区分表に該当する区分で目安をつけていただき、主治医に等級に該当する可能性があるか確認してください。
なお検査として、「予測肺活量」と「動脈血ガス分析値」の2つが挙がっていますが、認定基準では「呼吸不全の障害の程度の判定は、動脈血ガス分析値を優先する」と明記されています。
たとえば予測肺活量の検査では1秒率が「40~31%の間」で、等級が3級の範囲内であっても、動脈血ガス分析値が「動脈血酸素分圧が60~56Torrまたは動脈血炭酸ガス分圧が51~59Torrいずれか」であれば、こちらの検査結果が優先されるので2級に認定されます。
4 診断書を医師にお願いする際の注意点と確認事項
呼吸器の障害用の診断書はこちら(PDF)です。
障害年金は書類審査です。診断書の記載内容で等級がほとんど決まります。
それだけ重要な書類であるにもかかわらず、診断書に記載する内容が細かい上に、記載する医師も忙しいため、空白があったり、実際よりも症状が軽く書かれてしまっていたりといったことは少なくありません。
診断書の不備で等級判定に納得がいかないことを防ぐためにも、以下を実践してください。
4-1 自覚症状や発作の程度をメモして主治医に渡す
診断書には請求者の自覚症状や発作の程度などを書く欄があります。
定期的な受診時にきちんと伝えられていないことが多いかと思いますので、以下の項目についてメモを作成して、診断書と一緒に主治医に渡すようにしましょう。
(1)自覚症状について
せき、たん、胸の痛み、呼吸困難(安静時・体動時)、喘鳴があるか、ある場合はどのくらいの症状か。
(2)一般状態区分表をみて、自分が該当すると思うものとその理由。
(3)活動能力の程度について
以下から現在の状況についてあてはまるものを主治医に伝える。
ア | 階段を人並みの速さでのぼれないが、ゆっくりならのぼれる。 |
イ | 階段をゆっくりでものぼれないが、途中休み休みならのぼれる。 |
ウ | 人並みの速さで歩くと息苦しくなるが、ゆっくりなら歩ける。 |
エ | ゆっくりでも少し歩くと息切れがする。 |
オ | 息苦しくて身のまわりのこともできない。 |
(4)喘息発作の強度と頻度について
以下からについてあてはまる喘息発作の症状を主治医に伝える。
喘息発作の強度
大発作 | 苦しくて動けなく、会話も困難 |
中発作 | 苦しくて横になれず、会話も苦しい |
小発作 | 苦しいが横になれる、会話はほぼ普通 |
その他 | ①喘鳴のみ ②急ぐと苦しい ③急いでも苦しくない |
喘息発作の頻度
- 1週間に5日以上
- 1週間に3~4日
- 1週間に1~2日
- その他(どのくらいの頻度で発作があるか詳しく伝える)
(5)喫煙歴について
たばこを吸ったことがある場合は、1日何本を何年間続けているか
禁煙した場合は1日何本を何年間続けていたか
4-2 診断書の確認事項
診断書に記載漏れがある場合は必ず医師に加筆してもらいましょう。特に検査数値について記載漏れがあると、正しい等級判定ができませんので細かく確認してください。
(1)診断書に赤太字で(平成 年 月 日)と書かれている箇所について、記載漏れがないか
(2)診断書表面「6 換気機能」および「7 動脈血ガス分析」の記入欄に記載漏れがないか
(3)診断書表面「7 動脈血ガス分析」について
酸素吸入を施行している場合、動脈血ガス分析値の検査結果は、診断書記入欄の()内に記載されていますか。
(4)気管支喘息で障害年金を申請する場合は、裏面(13)気管支喘息の1~7の項目に記載漏れがないか
(5)診断書裏面(15)現症時の日常生活活動能力及び労働能力の記入欄に記載漏れがないか
(6)診断書裏面(16)予後の記入欄に記載漏れがないか
5 まとめ
今回の記事では、喘息で障害年金を請求する場合におさえておきたい、
- 障害年金の制度
- 障害年金が受給できる喘息や症状の程度(認定基準)
- 診断書を医師に書いてもらう際の注意点
以上3点について詳しくお伝え致しました。
障害年金は、必要書類を集めて提出すればだれでも受給できるものではありません。
審査を突破して障害年金の認定を受けるためには、年金機構の基準にそった診断書などが必要です。
出来る限り必要な知識を身につけて申請するようにしましょう。
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