人工肛門を造設するとストーマ装具の交換や定期的なメンテナンスが必要で費用の負担も大きく、仕事や日常生活への制限も小さなものではありません。
そんなオスメイトの生活を支えてくれる制度のひとつに障害年金があります。障害年金が受給できた場合、最低でも年間58万4500円が支給されます。障害年金があるかないかで生活は大違いです。
しかし、障害年金は申請すればすべての方に支給されるものではありません。障害年金を受給するためには、日本年金機構の定める一定の条件を満たしている必要があります。
今回は人工肛門(ストーマ)の障害年金の認定基準や申請する際のポイントをご説明します。
この記事を読めば、ご自身が障害年金を受給できるかどうかおおよその目安がわかるはずです。
1 人工肛門を造設していると障害年金を受給できる!
人工肛門を造設している場合、原則として障害年金の3級に認定されます。
詳しい基準をご説明する前に、まず、障害年金の制度について簡単にご説明します。
障害年金とは・・・?
病気やケガなどが原因で日常生活や仕事に支障が出ている方を対象に支給される年金です。
原則、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日といいます)から1年6ヶ月後から受給することができます。
また、障害年金は原則として20歳から64歳までの方が請求することができます。
障害年金には初診日に加入していた年金制度に応じて2つの種類があります。
障害基礎年金 |
<支給対象> 〇病気やケガのために初めて病院を受診した日の加入年金制度が国民年金の方 ・自営業、アルバイト、学生等 ・厚生年金加入者の配偶者(第3号被保険者) ・20歳より前に初診日があり年金に加入していなかった方(先天性疾患等) <年金額> 1級 年間97万4125円(月 8万1177円) 2級 年間77万9300円(月6万4941円) |
障害厚生年金 |
<支給対象> ・初診日に厚生年金に加入していた方 ※20歳より前に初診日があっても、厚生年金に加入していれば障害厚生年金の対象者です。 <年金額> 1級 報酬比例の年金額×1.25+障害基礎年金1級(年間97万4125円) 2級 報酬比例の年金額+障害基礎年金2級(年間77万9300円) 3級 報酬比例の年金額(最低保障額 年間58万4500円) |
障害基礎年金では日本年金機構の定める障害等級1級又は2級に認定された方に、障害厚生年金では1級から3級に認定された方に障害年金が支給されます。
障害年金を受給するためにはおおまかにいうと2つの条件を満たしている必要があります。
(1)初診日の前日時点で、初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること。 若しくは、初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと。【保険料の納付要件】
(2)障害の程度が日本年金機構の定める基準に該当していること【障害の程度の要件】 |
(1)の保険料の納付要件を満たしていなければ、どんなに症状が重くても障害年金を受給することはできません。自分が納付要件を満たしているかは、お近くの年金事務所で確認することができます。
納付要件を満たしていることがわかれば、次に重要なのは(2)の障害の程度の要件です。初診日に国民年金に加入していた方は1級又は2級、厚生年金に加入していた方は1~3級のいずれかに認定される必要があります。
2 人工肛門の認定基準
2-1 人工肛門を造設した場合
障害年金では、それぞれの傷病について「このくらいの障害の程度であれば〇級相当」と基準が設けられています。これを障害年金の認定基準と言います。
認定基準では、人工肛門を造設している場合は原則3級に認定すると決められています。
ここで重要になるのが、人工肛門造設の原因となった傷病(クローン病や大腸がん等)のために初めて病院を受診した日(初診日)に加入していた年金制度です。
1章の「障害年金とは…」でご説明したとおり、初診日に厚生年金に加入していた場合には障害厚生年金、国民年金に加入していた場合には障害基礎年金の対象になります。
障害厚生年金では1級から3級のいずれかに該当した場合、障害基礎年金では1級または2級のどちらかに該当した場合に障害年金が支給されます。
人工肛門は原則3級に認定されるため、初診日に厚生年金に加入していた場合は、納付要件さえ満たしていれば障害年金を受給することができます。
それに対して、初診日に国民年金に加入していた場合は3級では障害年金が支給されません。
人工肛門を造設後、人工肛門が上手く機能していない場合や、人工肛門造設の原因となった傷病の状況や進行状況((例)がんが原因で転移がある、抗がん剤治療で副作用がある等)によっては2級以上に認定される可能性もあります。
障害年金の診断書では、日常生活への支障の程度を5つの段階に分けて示した「一般状態区分」という項目があります。人工肛門の造設で2級以上に認定されるためには、日常生活を送るにあたって介助を必要とすることがあり、軽い家事や事務作業もできない程度、つまり以下の区分のうち少なくとも「ウ」「エ」「オ」のいずれかに該当する必要があります。
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起きているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
がんの認定基準についてはこちらの記事をご参照ください
『がん(悪性新生物)の障害年金認定基準と書類作成の4つのポイント!』
また、人工肛門に加えてその他の人工臓器等を造設している場合には、2級に認定される場合があります。
以下で詳しくご説明します。
2-2 人工肛門+新膀胱を造設または尿路変更術を施した場合
人工肛門の造設に加えて、新膀胱を造設した場合、または尿路変更術を造設した場合は、原則として2級に認定されます。
そのため、初診日に国民年金に加入していた場合でも障害年金が支給されます。
2-3 人工肛門+カテーテル留置または常時自己導尿が必要な場合
人工肛門の造設に加えて、カテーテルを留置している場合、または常時自己導尿を行っている場合は、原則として2級に認定されます。
そのため、初診日に国民年金に加入していた場合でも障害年金が支給されます。
3 診断書を依頼する際の注意点
障害年金を申請するためには医師の作成した診断書を提出する必要があります。診断書は障害年金の申請にあたって一番重要な書類です。
障害年金は書類審査であり、審査官と一度も面談することなく提出した書類の内容ですべてが決まってしまいます。
どんなに症状が重くても、日常生活に支障が出ていても、提出した書類でそれが伝わらなければ不支給になってしまうこともありえるのです。
人工肛門を造設していても、そのことが診断書の記載されていなければ、ないものとして扱われてしまいます。お医者さんに診断書を作成してもらったら、人工肛門の造設について記入漏れがないかしっかり確認してください。
また、人工肛門が上手く機能していない場合や、人工肛門造設の原因となった傷病によって他の障害が発生している場合(がんが原因で転移がある、抗がん剤治療を受けている等)は、それについても記載してもらうようにしましょう。
血液・造血器・その他の障害用の診断書(PDF)
4 知っておきたい3つのポイント
4-1 障害者手帳の等級が4級でも受給できる!
人工肛門を造設している方の中には、障害手帳をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
障害者手帳では人工肛門は原則4級に認定されます。障害年金の受給には最低でも3級以上に認定される必要があるため、障害者手帳4級では受給できないと勘違いしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、これは大きな誤りです。障害者手帳と障害年金は全くの別制度であり、異なる認定基準で判断されているので、同じ病気であっても等級が異なることがたびたびあります。
人工肛門は障害年金では3級に認定されるので、障害者手帳が4級であっても問題ありません。
4-2 働いていても受給できる!
障害年金では等級認定の判断基準として「日常生活や仕事への支障の程度」が重視されています。
人工肛門を造設している方の場合は、造設後、職場に復帰したり、問題なく日常生活を送ることができている、という方も少なくありません。そのため、仕事に復帰しているから障害年金をもらえないのではないかと不安に思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、人工肛門を装着している場合は、もちろん日常生活や仕事への支障の程度も考慮されますが、あくまでも人工肛門の造設が重視されているため、仕事ができているからと言って認定されないということはありません。
4-3 造設してから6ヶ月経った日から障害年金を請求できる!
障害年金は通常、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日)から一定期間を経過しなければ、障害年金を請求することができません。この期間は原則1年6ヶ月と定められており、1年6ヶ月経過した日のことを「障害認定日」と言います。
この、障害認定日には一部例外があり、人工肛門もその例外のひとつです。人工肛門を造設した場合は、初診日から1年6ヶ月が経過していなくも、人工肛門を造設した日から6ヶ月経った時点で障害年金を請求することができます。
ただし、人工肛門造設の原因となった傷病で初めて病院を受診した日から1年6ヶ月経った日が人工肛門造設から6ヶ月経った日よりも早い場合は、初診日から1年6ヶ月経った日から障害年金を請求することができます。
また、人工肛門に加えて他の人工臓器等を造設している場合の障害認定日は下記の通りです。
(1) 人工肛門+新膀胱を造設した場合
人工肛門を造設した日から6ヶ月経った日と新膀胱を造設した日のいずれか遅い日と初診日から1年6ヵ月経った日のいずれか早い日が障害認定日になります。
(2) 人工肛門+尿路変更術を施した場合
人工肛門を造設した日から6ヵ月経った日と尿路変更術を施した日から6ヶ月経った日のいずれか遅い日と初診日から1年6ヶ月経った日のいずれか早い日が障害認定日になります。
(3) 人工肛門+カテーテル留置または常時自己導尿が必要な場合
人工肛門を造設した日から6ヶ月経った日とカテーテル留置または自己導尿を導入した日から6ヶ月経った日のいずれか遅い日と初診日から1年6ヶ月経った日のいずれか早い日が障害認定日になります。
5 まとめ
今回は、障害年金における人工肛門の認定基準についてご説明しました。
人工肛門を造設した場合は原則3級に認定されます。さらに、新膀胱を造設していたり尿路変更術を施していたり、カテーテル留置や自己導尿を行っている場合は原則2級に認定されます。
障害年金は2級に認定されれば少なくとも年間77万9300円、3級に認定されれば少なくとも年間58万4500円が支給されます。障害年金はオスメイトの生活の大きな支えになるはずです。
この記事が皆さんの障害年金申請のお役に立てば幸いです。
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