肝臓は「沈黙の臓器」と言われていて、痛みを感じる神経が通っていないがために病気の発見が遅れることが多く、「異変に気づいて病院に行ったら肝炎だった」、「原因不明のじんましんで病院を変え続けた」といった声も少なくありません。
肝硬変や肝炎は、代謝が低下したり、解毒作用が働かないので横になっているだけでもつらい病気です。障害年金を申請したいと思っているけれど、自分の症状でも受給できるかわからず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、日本年金機構の認定基準をもとに、肝疾患の症状や検査数値がどのくらいであれば、等級に認定されるのかご説明していきます。申請時の重要書類についてもご説明しますのでご参考になれば幸いです。
1 肝硬変・肝炎でも障害年金を申請することができる!
肝硬変や肝炎も障害年金の対象疾患です。
B型肝炎・C型肝炎、ウイルス性肝硬変、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎・肝硬変、アルコール性肝硬変、胆汁うっ滞型肝硬変、代謝型肝硬変(ウィルソン病、ヘモクロマトーシス)、原発性胆汁性肝硬変(胆管炎)など |
症状が重く、仕事や日常生活に大きく支障がでている場合は、障害年金の申請を検討しましょう。
障害年金とは?
病気やケガなどによって日常生活や仕事に支障が出ている方が受給できる年金です。
申請は20歳から65歳になる前々日までに行う必要があります。
日本年金機構が認定し、支給している国の制度で、年金の納付要件や障害の程度などの受給できる条件を満たしていれば、受給することができます。
障害年金の等級は1~3級で、初診日(病気のために初めて病院に行った日)に加入していた制度や、症状の程度によって該当する等級が変わります。
- 初診日に国民年金に加入していた、または20歳前に初診日がある場合(障害基礎年金):1級もしくは2級
- 初診日に厚生年金に加入していた場合(障害厚生年金):1級、2級、3級、もしくは障害手当金
(共済年金は現在、厚生年金と一元化されています)
2 肝疾患の認定基準
肝硬変や肝炎は、肝疾患による認定基準をもとに審査されます。
認定基準をもとに、あなたが障害年金を受給できる症状なのかセルフチェックしてみましょう。
※実際には診断書を書く医師があなたの症状を判断し、その診断書を読んだ年金機構の認定医が等級に認定します。チェック結果はあくまでも目安としてとらえてください。
まずは一般状態区分表から確認してみましょう。
2-1 各等級に相当する障害状態
一般状態区分表
日常生活や就労状況についておおまかに分け、どの程度に該当するか判断する表のことを、一般状態区分表と言います。この区分表で大まかに、まず認定基準に該当するかどうか判断することができます。
この区分表だけでいうと
【ア】は認定基準外、【イ】は3級か認定基準外、【ウ】は2級か3級、【エ】は2級、【オ】は1級に該当します。
あなたの日常生活状況を一番正確に表しているものを確認してみましょう。
区分 | 一 般 状 態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要な事もあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居(立ったり座ったりの生活を)しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床をしなければならず、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
この区分表の結果と様々な検査の結果を総合判断して認定されます。
続いて、検査項目について確認していきましょう。
重症度判定の検査項目と臨床所見
肝疾患の審査において重要視される血液検査の項目と、腹水・脳症などの臨床所見の基準の一例です。
腹水とはお腹の中に異常に大量の液体が溜まってしまっている状態、脳症とは肝臓の機能悪化のため神経に影響が出た場合におこる意識障害、精神障害、運動機能障害のことを指します。
検査項目/臨床所見 | 基準値 | 中等度の異常 | 高度異常 |
血清ビリルビン (mg/dℓ) |
0.3~1.2 | 2.0以上3.0以下 | 3.0超 |
血清アルブミン (g/dℓ) |
4.2~5.1 | 3.0以上3.5以下 | 3.0未満 |
血小板数(万/μℓ) | 13~35 | 5以上10未満 | 5未満 |
プロトロンビン時間 (PT)(%) |
70超~130 | 40以上70以下 | 40未満 |
腹水 | – | 腹水あり | 難治性腹水あり |
脳症(次表参照) | – | Ⅰ度 | Ⅱ度以上 |
肝性脳症の症状(意識障害、精神障害、運動機能障害など)がある場合は、下の表をご確認ください。
昏睡度 | 精神症状 | 参考事項 |
Ⅰ |
楽天的で気分が良いじょうたいであったり、抑うつ状態になる。 だらしなく、気にとめない態度をとる。 |
– |
Ⅱ | 時間や場所を正しく認識できない。(指南力障害) 物をとりちがえ、混乱する。 異常行動がある。 (例:お金をまく、化粧品をゴミ箱に捨てるなど) 意識が薄く、うとうとした状態ではあるが普通の呼びかけで起きる、会話もできる。(傾眠状態) 無礼な言動があったりするが、他人の指示には従う態度を見せる。 |
興奮状態がない。 尿便失禁がない。 手のひらを下向きにしたまままっすぐ体の前に腕をだした状態で、手のひらを上にあげた時に、パタパタと動く。(羽ばたき振せん) |
Ⅲ |
しばしば興奮状態、または脅迫的な思考や幻覚・錯覚を伴い、反抗的態度をみせる。 揺さぶる、顔を叩くなどの刺激で起きるが、他人の指示には従わない、または従えない。(簡単な命令には応じえる) |
羽ばたき振せんがある。
時間や場所をほとんど正しく認識できない。(指南力障害高度) |
Ⅳ | 寝たままで動かず、 痛みや刺激に反応するが起きない。(昏眠) |
刺激に対して払いのける動作、顔をしかめるなどの動きがみられるが起きない。 |
Ⅴ | 痛み刺激にもまったく反応しない。(深昏眠) | – |
いかがでしょうか。
検査成績の中で、最低でも中等度または高度の異常を3つ以上示す場合、あなたは障害年金を受給できる可能性があります。
最後に、一般状態区分と検査成績の結果をふまえて、どのくらいの等級に認定されうるのか確認してみましょう。
各等級に相当する障害状態
ここまでの結果を受けて、何級に該当しそうなのか目安としてご確認ください。
【肝疾患の認定基準】
等級 | 障 害 状 態 |
1級 | 検査成績および臨床所見のうち、高度異常を3つ以上示すもの |
一般状態区分表の【オ】に該当し、検査成績および臨床所見のうち、 高度異常を2つ、および中等度の異常を2つ以上示すもの |
|
2級 | 一般状態区分表の【エ】または【ウ】に該当し、検査成績および臨床所見のうち、 中等度または高度の異常を3つ以上示すもの |
3級 |
一般状態区分表の【ウ】または【イ】に該当し、検査成績および臨床所見のうち、 (3級は初診日に厚生年金に加入していた場合のみ支給されます) |
なお障害の程度の判定にあたっては、上記以外の検査の成績や治療および病状の経過なども総合的にみて判断されます。肝生検の結果や、診断書に記載された血液検査の結果によっては等級が変わる可能性があります。
2-2 アルコール性肝硬変の場合は断酒が条件
アルコール性肝硬変については、継続して必要な治療をおこなっていること、検査日より180日以上アルコールを摂取していないことが確認できる場合に限り、認定されることになっています。
アルコールを摂取しているがために主治医に診断書の作成を拒まれてしまうことがありますが、これは診断書を提出したとしても認定されないためです。
まずは主治医の治療方針に従って、病気を治す努力をしましょう。
2-3 慢性肝炎でも認定基準に該当すれば認定の対象
慢性肝炎は原則として認定の対象になりませんが、先に挙げた重症度判定の検査項目と臨床所見などから認定基準に該当する場合は、認定の対象になります。
2-4 肝がんでも肝疾患の認定基準で認定されるケースがある
がんの認定基準は別にありますが、肝がんでも、先に挙げた重症度判定の検査項目と臨床所見などから認定基準に該当する場合は、肝疾患の認定基準で認定されます。
検査項目と臨床所見で異常が診られない場合は、がんの認定基準で認定されます。
どちらの認定基準で認定されるかは提出する診断書で変わりますので、検査項目に異常があった場合は必ず肝疾患の診断書で提出しましょう。
2-5 肝臓移植をしても術後1年間は同じ等級を受けることができる
余談ではありますが、肝臓移植を受けた場合は、先に挙げた認定基準以外にも、手術後の症状、治療経過、検査の結果や予後を考慮して認定されます。
また、障害年金にはいわゆる更新があり、更新時に提出した診断書で症状の治癒がみられた場合は障害年金が支給停止になります。
ただし肝疾患による障害年金を受け取っている人が肝臓移植を受けた場合には、移植後の肝臓が安定的に機能するまでの間を考慮して、手術後1年間は以前の等級のまま支給されることになります。
3 初診日までの年金の納付要件を確認する
ここまでで、どの程度の障害であれば障害年金の等級に該当するかについてご説明しました。
しかし障害年金は、障害状態の他に、初診日までの「年金の納付要件(条件)」を満たしていなければなりません。
以下を確認してみましょう。
初診日の時に、国民年金、厚生年金、共済年金に加入していた方、もしくは20歳未満の方で (1)初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(原則) または (2)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(特例) |
(1)もしくは(2)に該当しなければ条件を満たしていないので、障害年金を受給することができません。
自分が納付要件を満たしているか分からない場合は、お近くの年金事務所で教えてもらいましょう。
4 障害年金を受給するための3つの重要書類と取付け方法
2章、3章では障害年金が受給できる人の条件についてご説明してきました。
続いて障害年金の申請準備にあたって、重要な書類の取り付け方や作成の方法についてご説明していきます。
4-1 受診状況等証明書
「受診状況等証明書」とは、肝硬変の症状のために初めて病院を受診した日(初診日)を証明するための書類です。
障害年金の受給資格や納付状況を確認するために、かならず初診日を証明しなければなりません。初診日のある病院で作成を依頼しましょう。(診断書を書いてもらう病院が初診病院である場合は必要ありません。)
しかしながら、初診日のある病院で、すでにカルテが破棄されていたり、廃院になっていて受診状況等証明書がとれないケースもあります。
このような場合は、病院の診察券や健康診断時の病院への紹介状、生命保険等の給付申請時の診断書などの参考資料と一緒に「受診状況等証明書が添付できない申立書」という書類を提出しましょう。
この時、参考資料に初診病院の名前、初診日頃の日付の記載があると、初診日が認められやすくなります。
初診日証明について、詳しくは「障害年金の申請に必須!初診日証明の方法と書類の確認ポイントを解説」を参考にして下さい。
4-2 診断書
肝疾患の障害用の診断書を主治医に書いてもらいましょう。
診断書には自覚症状について記載する項目があるので、医師に依頼する前に必ず症状を伝えてください。
以下のような症状があれば、症状の程度とともに主治医に伝えましょう。
- 全身のだるさ、倦怠感
- 発熱
- 食欲不振
- 吐き気、嘔吐
- 皮膚のかゆみ、じんましん
- こむら返り、筋肉のつり
- 吐血、下血
病院から診断書を受け取ったら、必ず記入漏れがないか確認してください。
特に赤字で書かれている欄に記入漏れがあると、申請しても差し戻されてしまうので注意しましょう。
4-3 病歴・就労状況等申立書
「病歴・就労状況等申立書」とは、発病したときから現在までの経過を3~5年に区切って申告するための書類です。
受診状況等証明書や診断書と違い、請求者が作成する書類です。
いままでの病状や日常生活、就労状況について請求者が直接申告できる唯一の書類ですので、下記をご参考にして頂き、具体的に記入してください。
受診していた期間について | ・どのくらいの期間、どのくらいの頻度で受診したか |
・入院した期間やどんな治療をして、改善したかどうか | |
・医師から言われていたこと (家事もやってはいけない等安静にするようにといった指示、食事制限など。) |
|
・日常生活状況 (具体的にどんな症状があって、どう困っていたか。) |
|
・就労状況 (週に何日、1日何時間働いているか。仕事中や仕事後に体調に変化があれば記入する。病気のために生じている仕事の制限や職場での配慮があれば記入する。) |
受診していなかった期間について | ・受診していなかった理由 (自覚症状がなかった、経済的に行けなかった等。) |
・自覚症状の程度 (いつどんな症状がどの程度あったか。) |
|
・日常生活状況 (普段通りではなかったことがあれば記入する。) |
|
・就労状況 (病気によって仕事に支障がでていたか等を記入する。) |
5 まとめ
今回の記事では、肝硬変(肝疾患)の症状で障害年金を申請する際に確認しておきたい、障害年金の認定基準をご説明いたしました。
ご説明した認定基準をもとに主治医に相談をすることもよいでしょう。
初診日から1年6ヶ月たった状態で認定基準に該当する、もしくは、1年6ヶ月後の症状は軽かったけれど現在の症状は認定基準に該当するという場合は、なるべく早く申請できるよう、準備を進めてください。
患者団体や病院の方、あるいは報道機関から、この記事を利用したいとのお問い合わせをいただくことがあります。
障害年金の制度を患者の方にお伝えいただく目的で使用いただくのであれば、無償で利用していただいて結構です。
ただし、以下のルールを必ず守っていただきますようにお願いいたします。
- 記事は修正しないでそのまま使用してください。
- 咲くやこの花法律事務所の記事であることは使用の際に明示をお願いいたします。
- 紙媒体での使用のみとし、記事をインターネット上にアップロードすることは禁じます。
- 患者団体または病院関係者、報道機関以外の方の使用は禁じます。