腎不全は体の倦怠感や食欲不振、頭痛、動悸等の症状を引き起こします。
さらに、症状が進行し人工透析を施行すると週に数回は透析のために病院へ通院することになり、日常生活への制限は小さなものではありません。
そんな腎不全患者の生活を支えてくれる制度のひとつに障害年金があります。障害年金が受給できた場合、最低でも年間58万4500円が支給されます。障害年金があるかないかで生活は大違いです。
しかし、障害年金は申請すればすべての方に支給されるものではありません。障害年金を受給するためには、日本年金機構の定める一定の条件を満たしている必要があります。
今回は腎不全の障害年金の認定基準や申請する際のポイントをご説明します。
この記事を読めば、ご自身が障害年金を受給できるかどうかおおよその目安がわかるはずです。
咲くやこの花法律事務所認定実績例はこちらをご覧ください。
1 腎不全は障害年金の対象疾患
腎不全は障害年金の対象疾患です。しかし、腎不全であれば障害年金が支給されるわけではなく、年金機構の定める一定の基準を満たしている必要があります。
詳しい基準をご説明する前に、まず、障害年金の制度について簡単にご説明します。
障害年金とは・・・?
病気やケガなどが原因で日常生活や仕事に支障が出ている方を対象に支給される年金です。
原則、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日といいます)から1年6ヶ月後から受給することができます。
また、障害年金は原則として20歳から64歳までの方が請求することができます。
障害年金には初診日に加入していた年金制度に応じて2つの種類があります。
障害基礎年金 |
<支給対象> 〇病気やケガのために初めて病院を受診した日の加入年金制度が国民年金の方 ・自営業、アルバイト、学生等 ・厚生年金加入者の配偶者(第3号被保険者) ・20歳より前に初診日があり年金に加入していなかった方(先天性疾患等) <年金額> 1級 年間97万4125円(月 8万1177円) 2級 年間77万9300円(月6万4941円) |
障害厚生年金 |
<支給対象> ・初診日に厚生年金に加入していた方 ※20歳より前に初診日があっても、厚生年金に加入していれば障害厚生年金の対象者です。 <年金額> 1級 報酬比例の年金額×1.25+障害基礎年金1級(年間97万4125円) 2級 報酬比例の年金額+障害基礎年金2級(年間77万9300円) 3級 報酬比例の年金額(最低保障額 年間58万4500円) |
障害基礎年金では日本年金機構の定める障害等級1級又は2級に認定された方に、障害厚生年金では1級から3級に認定された方に障害年金が支給されます。
障害年金を受給するためにはおおまかにいうと2つの条件を満たしている必要があります。
(1)初診日の前日時点で、初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること。 若しくは、初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと。【保険料の納付要件】
(2)障害の程度が日本年金機構の定める基準に該当していること【障害の程度の要件】 |
(1)の保険料の納付要件を満たしていなければ、どんなに症状が重くても障害年金を受給することはできません。自分が納付要件を満たしているかは、お近くの年金事務所で確認することができます。
納付要件を満たしていることがわかれば、次に重要なのは(2)の障害の程度の要件です。初診日に国民年金に加入していた方は1級又は2級、厚生年金に加入していた方は1~3級のいずれかに認定される必要があります。
2 腎不全の認定基準
2-1 慢性腎不全の場合
障害年金では、それぞれの傷病について「このくらいの障害の程度であれば〇級相当」と基準が設けられています。これを障害年金の認定基準と言います。
慢性腎不全の認定基準では診断書の記載事項である血液検査の「検査数値」と日常生活への支障の程度を示す「一般状態区分」が重視されています。
これら2つの項目を基に、下記のとおり認定基準が定められています。
等級 | 障害の程度 |
1級 | 内因性クレアチニンクリアランスまたは血清クレアチンの検査成績が高度異常を示し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 | 内因性クレアチニンクリアランスまたは血清クレアチンの検査成績が中等度または高度の異常を示し、かつ、一般状態区分表のエまたはウに該当するもの |
3級 | 内因性クレアチニンクリアランスまたは血清クレアチンの検査成績が軽度、中等度または高度の異常を示し、かつ、一般状態区分表のウまたはイに該当するもの |
これだけ見てもわからないと思いますので、ここからは認定基準で重視される2つの項目についてご説明します。
(1)検査成績
慢性腎不全の認定基準では、内因性クレアチニンクリアランスと血清クレアチニンの2つの検査数値が重視されています。数値によって軽度異常、中等度異常、高度異常の3つの段階に分けられています。
検査項目 | 軽度異常 | 中等度異常 | 高度異常 |
内因性クレアチニンクリアランス | 20以上30未満 | 10以上20未満 | 10未満 |
血清クレアチニン | 3以上5未満 | 5以上8未満 | 8以上 |
(2)一般状態区分
一般状態区分とは診断書の記載項目の1つです。障害によって日常生活にどの程度支障が生じているかを以下の5つの段階に分けて示しています。
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起きているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
以上を踏まえて、再度、認定基準の表を確認してください。自分が障害年金を受給できるか、またどの等級に該当しそうか、おおよその見込みがわかるのではないでしょうか。
2-2 人工透析を施行している場合
腎不全が進行し、末期腎不全になると人工透析を受けているかたもいらっしゃるかと思います。
認定基準では、人工透析を施行している場合は原則2級に認定すると決められています。
そのため、人工透析を受けている場合は、初診日に国民年金に加入していた場合でも、厚生年金に加入していた場合でも、納付要件さえ満たしていれば障害年金を受給することができます。
3 診断書を依頼する際の注意点
障害年金を申請するためには医師の作成した診断書を提出する必要があります。診断書は障害年金の申請にあたって一番重要な書類です。
障害年金は書類審査であり、審査官と一度も面談することなく提出した書類の内容ですべてが決まってしまいます。
どんなに症状が重くても、日常生活に支障が出ていても、提出した書類でそれが伝わらなければ不支給になってしまうこともありえるのです。
例えば、人工透析を受けていても、そのことが診断書の中に記載されていなければ、ないものとして扱われてしまいます。
お医者さんに診断書を作成してもらったら、記入漏れがないかしっかり確認してください。
腎疾患・肝疾患・糖尿病の障害用の診断書(PDF)
4 知っておきたい2つのポイント
4-1 初診日はいつになるのか
障害年金において重要な要素の一つに初診日があります。初診日とは病気のために初めて病院を受診した日のことです。
この初診日を基準として支給される障害年金の種類が決まったり、障害認定日(障害年金の請求ができるようになる日)が決まったりします。
腎不全で障害年金を申請する場合は、この初診日に注意する必要があります。
よく腎不全と診断された日が初診日ではないかと考えている方がいらっしゃいますが、障害年金における初診日とは、初めて腎不全と診断された日ではなく、腎不全の原因となった傷病で初めて病院を受診した日です。
腎不全の原因は、糖尿病性腎症や糸球体腎炎、腎硬化症など様々ですが、例えば、糖尿病性腎症が原因で腎不全になった場合は、糖尿病で初めて病院を受診した日が初診日になります。
初診日の証明ができない場合
腎臓疾患の中には進行が遅く、腎不全にいたるまでに長い年月が経過しているものも少なくありません。
障害年金を申請する際には自分の初診日がいつか証明する必要があります。
初診病院で受診状況等証明書という書類を書いてもらうことが一般的ですが、腎不全で申請する場合は初診日から長い時間が経過しており、病院が廃院していたり、カルテが廃棄されているために初診日の証明が困難なことがしばしばあります。
この場合は初診病院で発行された診断書のコピーや紹介状、診察券、第三者証明などを初診日の証明として提出します。
初診日の証明について詳しくはこちらの記事をご参照ください。
‣障害年金の申請に必須!初診日証明の方法と書類の確認ポイントを解説
4-2 人工透析の場合は始めた日から3か月経てば障害年金を請求できる!
障害年金は通常、初診日から一定期間を経過しなければ、障害年金を請求することができません。この期間は原則1年6ヶ月と定められており、1年6ヶ月経過した日のことを「障害認定日」と言います。
この、障害認定日には一部例外があり、人工透析もその例外のひとつです。人工透析を施行した場合は、初診日から1年6ヶ月が経過していなくも、人工透析を開始した日から3ヶ月経った時点で障害年金を請求することができます。
ただし、人工透析の原因となった傷病で初めて病院を受診した日から1年6ヶ月経った日が、人工透析開始から3ヶ月経った日よりも早い場合は、初診日から1年6ヶ月経った日から障害年金を請求することができます。
5 まとめ
今回は、障害年金における腎不全の認定基準についてご説明しました。
腎不全の認定基準では内因性クレアチニンクリアランスと血清クレアチニンの検査成績と日常生活への支障の程度の2つの項目が重視されています。
また人工透析を受けている場合は、原則2級に認定すると決められています。
障害年金は1級に認定されれば少なくとも年間97万4125円、2級に認定されれば少なくとも年間77万9300円、3級に認定されれば少なくとも年間58万4500円が支給されます。
障害年金は腎不全患者の生活の大きな支えになるはずです。
この記事が皆さんの障害年金申請のお役に立てば幸いです。
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