障害年金を請求する際、「初診日証明」を避けて通ることはできません。
今回の記事では、なかなか資料が集まらず証明できない、このままでは受給できないかもという方にも実践してもらいやすいように、一番簡単な方法から複雑なものまで色々な初診日の証明方法を挙げてご説明していきたいと思います。
1 初診日証明とは?
「障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」を初診日と言いますが、この初診日を医療機関が発行する書類などで証明することを、【初診日証明】といいます。障害年金の申請には、この初診日証明が必要不可欠です。
1-1 初診日を証明しなければならない理由
初診日を証明しなければならない理由は2つあります。
1つ目は受給資格や年金の納付状況を確認するため、2つ目に障害認定日を決めるためです。以下で順にご説明します。
受給資格や年金の納付状況を確認するため
障害年金を受給するためには初診日の時点で国民年金・厚生年金・共済年金に加入していること(受給資格)、年金保険料の納付の条件を満たしていることが必要です。
この2つを証明して「私は障害年金を受け取る資格がある。」と年金機構に申し立てるために、初診日を特定しなければなりません。
障害認定日を決めるため
「障害認定日」とは「初診日から1年6か月経った日」のことを言います。(一部傷病では、初診日から3か月後、6か月後のことを指すこともあります。)
障害認定日の日付から障害年金の請求ができるので、この日付を決めるために初診日を特定する必要があります。
2 初診日証明の方法
2-1 医療機関で証明書を書いてもらう
初診日は「受診状況等証明書」を初診の病院で書いてもらうことで証明できます。
ただし例外として、初診日のある病院と現在通っている病院が同一の場合は、診断書によって証明できます。
受診状況等証明書は年金事務所にあるので事前にもらっておくか、下記をご利用ください。費用は病院にもよりますが、だいたい2,000円~5,000円ほどです。
2-2 書類の確認ポイント
受診状況等証明書の場合
特に以下の点に不備があったときは、記入した医師に加筆・修正をしてもらうようにしてください。
・「(5)発病から初診までの経過」の欄に前医の記載がある場合
→年金事務所から前医での初診日の証明を求められる可能性が高いです。前医に受診状況等証明書を書いてもらいましょう。
・「(6)初診年月日」の日付に記入漏れはないか
→空白だった場合は必ず記入してもらって下さい。
・「(10)次の該当する番号(1~4)に〇印をつけてください」の欄に記載漏れや誤りはないか。
→必ず記入してもらって下さい。
・診療担当科名に記載はあるか
→病院名に診療科がついている場合(例:○○整形外科、等)以外は、記載してもらいましょう。
チェックポイントをまとめたものをご用意しました。ご活用ください。
▶参考情報:受診状況等証明書(確認用)(PDF)
診断書の場合
診断書表面上部に、「(3)(傷病)のため初めて医師の診療を受けた日」という欄があります。この欄に初診日を記入していただいたら、必ずその右隣にある「診療録で確認」に〇が付いているか確認してください。この2点が正しく記載されていないと、診断書のみで初診日の証明をすることはできません。
また、この初診日の日付と「(8)診断書作成医療機関における初診時所見」の日付は合致していなければならないので、こちらもご確認ください。
チェックポイントをまとめたものをご用意しました。ご活用ください。
▶参考情報:診断書(確認例)(PDF)
3 受診状況等証明書を書いてもらえなかった場合
初診日の病院が廃院していた、カルテが破棄されていた、などの理由で受診状況等証明書を書けないと病院で言われてしまった場合、以下に該当することができれば請求者本人が申し立てた初診日を認めてもらうことができます。
- 初診日が一定の期間内にあることを示す参考資料を提出できる場合
- 初診日について第三者が証明する書類(第三者証明)があり、他にも参考資料を提出できる場合
順にご説明していきます。
3-1 参考資料とは
初診病院の名前、初診日頃の日付の記載がある以下のようなものは、初診日を申し立てる上で参考資料として提出することができます。資料の信ぴょう性を増すためにも、可能な限り探してください。
- 身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳
- 身体障害者手帳などの申請時の診断書
- 生命保険・損害保険・労災保険の給付申請時の診断書
- 事業所などの健康診断の記録
- 母子健康手帳
- 健康保険の給付記録(診療報酬明細書も含む)
- 電子カルテなどによる記録
- お薬手帳・糖尿病手帳・領収書・診察券
- 小学校、中学校などの健康診断の記録や成績通知表
- 盲学校、ろう学校の在学証明・卒業証書 など
3-2 第三者証明とは
請求者が申し立てる初診日について、第三者が証言したことを資料として提出できます。この書類の正式名は「初診日に関する第三者からの申立書」ですが、一般に【第三者証明】と呼ばれています。第三者証明を書くことができる人は以下の2パターンに該当する方です。
1. 初診日頃に請求者が病院を受診していた事実を直接見たり、その当時聞いたりしていた(*)請求者の3親等(本人またはその配偶者から見て、「父母、子、祖父母、孫、兄弟姉妹、曾祖父母、曾孫、叔父叔母、姪甥」)以外の親族や、隣人、友人、民生委員など。2名以上に記入してもらう必要があります。
2. 初診日頃に請求者を直接診た医師、看護師、その他医療従事者。1名でも可能。
(*)の例をご紹介します。
・請求者が初診日頃に病院を受診した際に付き添ったり、病院で会って話した
・請求者が初診病院に通っていたことに関して、本人やその家族から聞いていた
ここで気を付けていただきたいのは、請求者の初診日頃の症状を知っている、という記載だけではダメだと言う事です。あくまでも「請求者が初診日のある病院を受診していたことを知っている」と申告する書類ですので注意しましょう。
また、申し立てるには当時の請求者の事情を知っていなければならないので、直近およそ5年以内に当時のことを聞いたという内容は第三者証明として申し立てることはできません。
第三者証明に協力してくれる人が見つかったら、書類を渡して書いてもらいましょう。第三者証明の書き方にもコツがあるので、下記の記入例を一緒に渡して依頼することをおススメします。
▶参考情報:初診日に関する第三者からの申立書(第三者証明)(記入例)
3-3 受診状況等証明書が添付できない申立書とは
その名の通りですが、初診の医療機関で受診状況等証明書を書いてもらえなかった場合に提出する書類で、請求者が記入します。受診状況等証明書が取付けできなかった理由や、どのような方法で取付けできない理由を知ったのかを記入します。また、受診状況等証明書を記入してもらえなかったが、初診日に関する客観的な資料や第三者証明を得られた場合はこの書類にその旨を書き入れます。
チェックポイントをまとめたものをご用意しました。ご活用ください。
▶参考情報:受診状況等証明書が添付できない申立書(確認用)
3-4 必ずどこかで書いてもらう必要がある
受診状況等証明書は、初診の病院で書いてもらえなかった場合でも、取得できる1番古い病院で必ず書いてもらう必要があります。
例えば上の表の場合、A病院で受診状況等証明書を書いてもらえなかった場合はB病院、B病院でも書いてもらうことができなかった場合は、次のC病院で書いてもらう、それができなかったらまた次の病院に、というように必ずどこかの病院で受診状況等証明書を書いてもらう必要があります。
また、受診状況等証明書を得られなかった病院分の「添付できない申立書」も必要です。
参考資料や第三者証明はあくまで最初の病院(A病院)分のみの提出で大丈夫です。
3-5 客観的な資料で初診日が認められたケース
参考までに、ここまででご説明した初診日の証明方法で請求し、実際に初診日が認められたケースを3つご紹介します。
(1)2件目の病院のカルテの記載から、初診日を証明できたケース
1件目のA病院の書類は全て残っておらず初診日の証明がかなり難しい状態でしたが、2件目の病院のカルテを取り寄せて確認したところ、問診の際に「昭和〇年〇月にA病院を受診していた」との記載がありました。このカルテの写しを参考資料として提出したところ、初診日を証明することができ、障害年金を受給することが出来ました。
【ポイント】
初診日は一定期間にあることを証明できれば日付まで判明していなくても申し立てることができます。たとえば、平成29年6月頃、平成29年夏頃というような日付であっても可能です。
(2)健康保険組合から診療報酬明細書(レセプト)を開示して、初診日を証明できたケース
診療費の約7割は患者が加入する健康保険協会が負担していますが、この時負担した金額に関する明細書のことを診療報酬明細書と言います。この明細書はおよそ5年間健康保険協会で保管されているので、取り付けて参考資料として提出することができます。病院名はもちろん、カルテに記載されていた病名や診療を受けた日が記載されているのでとても有力な参考資料として提出することができ、初診日を証明することができました。
【ポイント】
初診日当時農業や自営業をしていた方は国民健康保険、民間企業に勤めていた人は、会社が属している健康保険協会に問い合わせて、診療報酬明細書の開示をおこなうことができます。
(3)当時の主治医に第三者証明を書いてもらい、初診日を証明できたケース
受診状況等証明書は病院にカルテが残っていなければ書くことができません。しかしながら医師や看護師が初診日頃に請求者を診たことを覚えていれば、たとえ記憶であっても第三者証明を提出することで初診日を認めることができます。
請求者は小学生の頃からストレスでよく体調を崩し、自宅近所のM心療内科を受診していました。このM心療内科は自宅から徒歩圏内だったこともあり、家族のかかりつけ医でもありました。20年後に精神疾患を患い、障害年金を請求するために初診日証明をとろうとM心療内科を訪れました。一度はカルテがないので書けないと言われてしまいましたが、たまたま母親が受診した際に経緯を説明したところ、主治医が請求者のことを覚えており、第三者証明を書いてもらうことが出来ました。その他、病院名が記載された診察券や、お薬手帳の写しを参考資料として提出したことで、初診日を証明することが出来ました。
【ポイント】
第三者証明はあくまでも記憶をもとにして書かれているので、できる限り客観的な資料を提出して第三者証明の信ぴょう性を上げることが大切です。
4 初診日証明に困ったら
手元に参考資料は残っていない。第三者証明も取れそうにない…と困ってしまった方は、障害年金専門の弁護士や社会保険労務士に相談してみましょう。
依頼者のために必要な資料を集めることに長けており、実際に弁護士や社労士に依頼したことで受給可能になった人はたくさんいらっしゃいます。中には裁判で国に初診日を認めさせたケースも出てきています。
障害年金に関する無料相談をおこなっている社労士事務所や法律事務所も増えていますので、諦めずに相談してみましょう。
5 まとめ
以上、簡単なものから複雑なものまで初診日の証明方法をお伝えいたしました。
医師法24条によりカルテの保管は5年と決められていることもあって、初診日の証明が取れないケースは少なくありません。諦めずに請求できる道を探しましょう。
患者団体や病院の方、あるいは報道機関から、この記事を利用したいとのお問い合わせをいただくことがあります。
障害年金の制度を患者の方にお伝えいただく目的で使用いただくのであれば、無償で利用していただいて結構です。
ただし、以下のルールを必ず守っていただきますようにお願いいたします。
- 記事は修正しないでそのまま使用してください。
- 咲くやこの花法律事務所の記事であることは使用の際に明示をお願いいたします。
- 紙媒体での使用のみとし、記事をインターネット上にアップロードすることは禁じます。
- 患者団体または病院関係者、報道機関以外の方の使用は禁じます。