障害年金の再審査請求にどう手を付ければいいかわからず悩んでいませんか?
再審査請求は審査請求の決定書が到着してから2か月という期間内に行う必要があり、急いで準備をする必要があります。
この記事では実際の事例も挙げながら、再審査請求の手続きの流れや、再審査請求成功のための重要ポイントを詳しく説明します。
再審査請求は審査請求よりも審査結果が変更される可能性が高いです。
審査請求で納得のいく結果が出なかったからと言ってあきらめるのはもったいないです。
しっかり準備をして再審査請求にいどみましょう。
1 再審査請求は審査請求よりも成功確率が高い!
障害年金の再審査請求の成功確率についての正確な統計は公表されていません。
しかし、再審査請求は審査請求よりも成功する確率が高いです。
この点については、筆者が弁護士として障害年金の請求に取り組んできた経験からも明らかです。
再審査請求と審査請求の大きな違いは、外部の弁護士や医師も加わって判断されるという点です。
審査請求では、地方厚生局の社会保険審査官という役職の人が1人で審査しますので、あくまで役所内の判断です。
これに対して、再審査請求では外部の弁護士や医師も加わった6人で審査されます。そのため、外部の視点も加わって、審査請求よりもより突っ込んだ審査がされます。
その結果、再審査請求は審査請求よりも審査が変更される可能性も高くなっています。
1-1 再審査請求が成功したケースの例
再審査請求が成功し、実際に判断が変更されているケースには、例えば以下のようなものがあります。
ケース1:初診日が特定できていないことを理由に不支給とされたが、再審査請求で支給が決定するケース
ケース2:障害の程度が軽く判断されていたが、障害の程度が重いことを主張した結果、再審査請求で上位等級が認定されるケース
ケース3:障害認定日の症状の程度が不明として遡及請求が認められていなかったが、再審査請求で遡及請求が認められるケース
1-2 再審査請求は弁護士か社労士への依頼がおすすめ
一方で、再審査請求をして失敗するケースの典型例として、不支給になっている理由を十分把握せずに、請求者の「気持ち」など不支給理由に関係のないことを再審査請求書に書いてしまっているケースがあげられます。
適切な再審査請求ができない場合は本来通るものも通らなくなってしまいます。
再審査請求も不支給になってしまった場合、不服申し立てができなくなりますので、再審査請求は障害年金専門の弁護士または社労士に依頼して行うことをおすすめします。
なお、審査請求までは親族による代理請求も可能ですが、再審査請求については弁護士または社労士でなければ代理人になることができません。
この記事では再審査請求を成功させるためのポイントについてご説明しますが、まず前提として、再審査請求の手続きの流れを確認しておきましょう。
2 再審査請求の手続きの流れ
再審査請求はおおまかにいうと、再審査請求書の提出で手続きが始まり、その後6か月くらいたってから「公開審理」という手続きが行われます。
そして、公開審理からさらに1か月か2か月後に結果が出るという流れになっています。審査期間は約8か月くらいかかることが多いです。
以下ではさらに詳細を見ていきましょう。
2-1 Step1:審査請求の結果が来た日の翌日から60日以内に準備する
再審査請求には期限があり、審査請求の結果が届いた日の翌日から60日以内に行う必要があります。
審査請求の結果が届いたら早急に準備を進めていきましょう。
特に、初診日について第三者証明書(あなたの通院状況を知っている誰かに、あなたが初診日の当時に通院していたこを証明してもらう証明書)を依頼したり、医師に診断書を修正してもらったりなど、人に依頼しなければならないものについては時間がかかることが多いので、すぐに準備を始める必要があります。
2-2 Step2:電話をして再審査請求の受付をする
再審査請求は、まず、厚生労働省に電話をして再審査請求の受付をすることから始まります。
審査請求の決定書の最後に再審査請求する場合の連絡先(厚生労働省の電話番号)が記載されています。
電話をすると、あなたの住所や氏名のほか、不服の内容、再審査請求にあたって代理人を付けるのかどうか、審査請求を判断した社会保険審査官の氏名などさまざまな項目を聴かれますので、必ず、審査請求の決定書を手元において電話するようにしてください。
再審査請求の受付をすれば、厚生労働省から再審査請求書の用紙を郵送してもらうことができます。
2-2 Step3:再審査請求書の提出
再審査請求書を作成して、霞が関の社会保険審査会に郵送して提出します。
2-3 Step4:公開審理の連絡が来る
再審査請求には、「公開審理」という制度があります。
これは審査請求にはない、再審査請求独自の制度で、公開の場で請求者や年金事務所の意見を聴く手続きです。
再審請求書を提出してから約5か月後に社会保険審査会から公開審理についての連絡がきます。
公開審査は霞が関の厚生労働省内で行われます。
請求者は公開審理に出席するかどうかについて、公開審査期日の10日前までにはがきで連絡することになっています。
なお、公開審理に出席しなくても特に不利益を受けることはありません。
2-4 Step5:公開審理が行われる
公開審理は、審査を担当する6名のうち、3名が参加して行います。
請求者が公開審理に出席する場合は、審査委員から請求者に質問がされることがあります。
また、公開審理の場で請求者が口頭で意見を述べ、あるいは書面を提出して意見を述べることも可能です。
2-5 Step6:結果が届く
公開審理の日の1か月から2か月程度後に、再審査請求の結果を記載した以下のような決定書が届きます。
以上が再審査請求の手続きの流れの概要です。
2-6 再審査請求でもだめなら裁判を検討
再審査請求でも判断が変わらなかった場合、国に対して裁判を起こして、年金の決定についての処分の変更を求めることが可能です。
その場合は、裁判官が年金の決定が正しかかったかどうかを判断することになります。
3 再審査請求成功のための5つのポイント
続いて、再審査請求成功のための重要なポイントとしておさえておきたい5つのポイントをご説明していきます。
3-1 ポイント1:再審査請求書の用紙の書式を理解する
まず最初に確認しておきたいのが、再審査請求書の用紙の書式です。
以下のような書式になっています。以下の通りです。
まず1枚目に「再審査請求の趣旨及び理由」という欄があり、「1」または「2」を選択する形式になっています。これについては、「2」の「別紙(2枚目)再審査請求の趣旨及び理由に記載のとおり。」を選択しましょう。そのうえで、2枚目に「再審査請求の趣旨及び理由」を記載することになります。
そして、この2枚目の「再審査請求の趣旨及び理由」のうち、「再審査請求の理由」の部分をどのように記載するかが、再審査請求成功のための最も重要なポイントになります。
3-2 ポイント2:審査請求が通らなかった理由を把握する
再審査請求を成功させるためには、まず最初に、審査請求が通らなかった理由を十分把握したうえで、理由に応じた対策を検討することが重要です。
「再審査請求の理由」を記載する前にまずこの検討をきっちり行っておきましょう。
審査請求の決定書は長いものが多いですが、しっかりと読んで、審査請求が通らなかった理由を把握する必要があります。
理由を把握するうえで特に重要なポイント
審査請求の決定書には、まず主文(結論)の記載があり、それ以降が「理由」になっています。
そして、「理由」部分については通常は以下の構成になっています。
第1 審査請求の趣旨
第2 審査請求の経過
第3 問題点
第4 審査資料
第5 事実の認定及び判断
このうち、第5の「事実の認定及び判断」は、「1 前記審査資料を総合すると、次の事実が認められる。」から始まる部分と、「2 以上認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。」から始まる部分があります。
この第5の「2 以上認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。」から始まる部分が特に重要な部分です。
この部分をしっかり読んで、理解することがまず必要です。
3-3 ポイント3:初診日不特定の場合は初診日についての資料を提出!
以下では審査請求が通らなかった理由ごとに再審査請求を成功させるためのポイントをご説明していきます。
まず、初診日が特定されていないことが理由で障害年金が不支給となっている場合は、初診日についての資料を追加提出することが再審査請求成功のための重要なポイントです。
初診日についての資料は裁定請求、審査請求の段階で提出されていると思いますが、さらに追加で提出できる資料があれば再審査請求で提出しましょう。
そのうえで、「追加提出した資料を踏まえれば、初診日が特定できていること」を再審査請求の理由として再審査請求書に記載することが必要です。
初診日が特定できない場合は作戦を変更する
初診日について十分な資料を出すことができない場合は、作戦を変更したほうが良い場合もあります。
障害年金の請求において、初診日の特定が必要とされるのは、初診日における年金の納付状況を審査するためです。
そのため、初診日がいつであっても、年金の納付状況に問題がない場合は、「初診日がいつであっても年金の納付要件を満たすこと」を再審査請求の理由として記載して主張することが可能です。
具体的には例えば、以下のような方法が考えられます。
Step1:健康診断や人間ドッグの記録を準備する
まず、障害年金の請求対象となる病気が発病する以前の、「異常なし」となっている健康診断や人間ドッグの記録のうち一番古いものを準備します。これにより、その健康診断や人間ドッグよりも以降に初診日があることが立証できます。
Step2:一番古いカルテを取り寄せる
次に、2院目以降で残っている一番古いカルテを取り寄せます。これにより、そのカルテに記載されている最初の通院日より以前に初診日があることが立証できます。
Step3:年金の納付状況を確認する
理論上、初診日はStep1で準備した「健康診断の日」と、Step2で取り寄せた「カルテに記載されている最初の通院日」の間の期間にあることになります。これを踏まえて、あなたの年金の納付状況を確認します。
Step4:いつでも納付要件を満たすことを主張する
Step1で準備した「健康診断の日」と、Step2で取り寄せた「カルテに記載されている最初の通院日」の間の期間において、どこに初診日があっても年金の納付要件を満たす場合は、「初診日がいつであっても年金の納付要件を満たす」と主張することが可能です。
3-4 ポイント4:障害の程度で不支給の場合は診断書の再提出がポイント
次にご説明するのは、障害の程度が軽いとして不支給とされたケースや、適切な障害等級よりも軽い等級が認定されたケースについての再審査請求です。
このように、年金事務所による障害の程度の判断に不服がある場合は、診断書の再提出が重要なポイントとなります。
裁定請求時の診断書が実際の症状よりも軽く書かれていたり、記載漏れがある場合は、医師に依頼して診断書を修正し、再提出することが基本的な方針となります。
そのうえで、再審査請求の理由として、「修正後の診断書によれば障害の程度の基準を満たすこと」を記載して、主張することが必要です。
ただし、この場合、なぜいったん提出した診断書を修正することになったのかについての合理的な理由の説明が必要になります。
そのため、診断書を修正してもらった場合は、修正の理由についても医師に記載してもらうことを忘れないようにしてください。
例えば、「本人からの症状の申告のみで診断書を書いていたが、家族からの聞き取りもしたところ、日常生活への支障の程度が重いことがわかったので診断書を修正した」などというように具体的な修正理由を記載してもらうことがベストです。
3-5 ポイント5:障害認定日の症状が不明とされた場合は資料提出がポイント
最後に、障害認定日の診断書が提出できないことが原因で遡及請求が認められなかった場合についての再審査請求のポイントをご説明します。
障害年金の遡及請求は、障害認定日の症状について診断書を提出しなければ原則として認められません。
そして、障害認定日に通院していなければ、障害認定日に症状についての診断書は作成してもらえません。
しかし、障害認定日の診断書が提出できないケースでも、障害認定日に近接した時期の診断書を提出し、かつ症状永続性についての資料を提出できれば、再審査請求で遡及請求が認められます。
この場合、障害認定日に近接した時期の診断書と症状永続性についての資料を根拠に、「障害認定日の時点で障害の程度の基準を満たしていたことは明らかであること」を再審査請求の理由として記載することが必要です。
なお、ここでいう、症状永続性についての資料とは、障害の内容や性質から症状が変わらないことが医学的に明らかであることを証明する資料を指します。
例えば、主治医に障害の内容や性質から症状が変わらないことについて意見書を出してもらうなどの方法があります。
医師に相談してみましょう。
4 再審査請求が認められた実際の事例
最後に、再審査請求が認められた実際の事例をいくつか紹介しておきたいと思います。
4-1 初診日不特定を理由とする不支給がくつがえった事例
まず、最初に、初診日不特定を理由とする不支給の決定が再審査請求によりくつがえった事例をご紹介します。
この事例は統合失調症についての障害年金請求事例です。初診日は未成年時であり、その点を立証できれば、請求が認められるケースでしたが、未成年時に通院した病院のカルテが残っていませんでした。
そのため、裁定請求では初診日が未成年時であることが立証できていないとして、請求が認められませんでした。
これについて再審査請求の結果、未成年時に初診日があったと認められ、国民年金2級が認められた事例(平成26年2月28日裁決)です。
第三者証明書の提出が決め手となった
この事例の成功のポイントは、初診日についての第三者証明書を提出したことです。この事例では、高校の担任教諭の第三者証明書が決め手となりました。
具体的には請求者は「高校2年生の時、胸がドキドキして眠れないので医者に行くと休んだことがあった」という第三者証明書を高校の担任教諭に記載してもらい提出しています。
これにより、未成年時に初診日があったと認められ、再審査請求で国民年金2級が認められました。
このように、初診日不特定による不支給のケースでは初診日についての資料を補充することが重要です。
4-2 障害の程度の判断が3級から2級に変更された事例
次に、再審査請求により障害の程度の判断が3級から2級に変更された事例をご紹介します。
このケースは、うつ病の裁定請求で3級とされたが、再審査請求で2級が認められた事例(平成24年6月29日裁決)です。
この事例で再審査請求が成功したポイントは以下の通りでした。
成功理由1:修正した診断書を提出したこと
この事例の成功のポイントの1つ目は、裁定請求時の診断書を医師に依頼して修正してもらい、修正した診断書を再審査請求で提出したことです。
修正箇所は複数にわたりますが、例えば、精神障害の重症度をあらわず、「日常生活能力の程度」欄の記載を5段階評価で「3」から「4」に修正しています。(「時に応じて援助が必要」から「身のまわりのことも多くの援助が必要」に修正)。
成功理由2:修正理由について十分な説明ができたこと
この事例の成功のポイントの2つ目は、診断書を修正した理由について医師から合理的な説明を提出できたことです。
具体的には、医師は診断書を修正した理由について次のように説明しました。
- 裁定請求時の診断書作成時点では本人が1人暮らしだったため本人からの聴取のみで日常生活能力を判定した。
- その後、本人が父親と一緒に暮らすようになり、父親からも本人の日常生活状況を聴取することができるようになり、その結果、本人による申告以上に日常生活に支障があったことが判明した。
このように診断書を修正し、かつその理由について合理的な理由を説明したことにより再審査請求に成功していますので参考にしてください。
4-3 遡及請求を不支給としていた決定がくつがえった事例
最後に、遡及請求を不支給としていた決定が再審査請求によりくつがえった事例をご紹介します。
この事例は先天性の知的障害について事後重症請求と遡及請求を同時に行ったケースです。
障害認定日である20歳のときに通院をしておらず20歳の時の診断書が提出できなかったことを理由に、裁定請求では遡及請求が認められませんでした。
これについて再審査請求の結果、20歳のときの診断書がなくても遡及請求について国民年金1級を認められました(平成24年3月30日裁決)。
症状永続性についての資料提出がポイントとなった
この事例では、障害認定日である20歳のときの診断書が提出できなかったため、20歳より以前の通院時の症状について診断書を出しました。
そのうえで、再審査請求において、請求者の知的障害が遺伝性の疾患によるものであり、悪くなることはあってもよくなることはないこと(症状永続性)について資料を提出して説明しました。
その結果、この資料と、20歳より以前の通院時の症状について診断書をあわせれば、20歳のときの症状が1級程度であったと確認できると再審査請求で判断され、遡及請求が認められています。
このように、障害認定日の診断書が提出できないことが原因で遡及請求が認められなかったケースでは、障害認定日に近接した診断書を提出し、かつ症状永続性についての資料を提出することが再審査請求の重要なポイントです。
5 まとめ
今回は、再審査請求の概要と、再審査請求の成功のためのポイントについてご説明しました。
再審査請求でダメなら次は裁判で障害年金を請求する方法になります。
再審査請求は訴訟前のラストチャンスですので、ポイントを踏まえて、万全の主張を行いましょう。
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