病気や怪我で働くことができなくなったとき、受けることができる福祉制度の一つに障害年金があります。
年金というと、65歳以上の方が受け取る老齢年金をイメージする方が多く、障害年金はあまり馴染みのない制度かもしれません。
この記事では、障害年金とはどのような制度なのか、どんな人が対象になるのか等を説明した上で、具体的な申請方法や手続きの手順など障害年金の申請に関してわかりやすくご説明します。
目次
1,障害年金とは?
障害年金とは、障害によって日常生活や仕事に支障が出ている方に支給される年金です。
65歳以上の方が対象となる老齢年金とは違い、障害年金は原則として20歳以上64歳以下の障害のある方が対象となります。
肢体の障害や精神障害、がん、糖尿病といった様々な傷病が対象となり、支給される金額は障害の程度や障害を発症するまでに納めた年金保険料によって異なりますが、平均支給額は月77,829円(年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)平成26年)で、最も軽い等級(3級)でも最低年間約58万円の年金を受け取ることができます。
2,障害年金の受給要件は?
障害年金は、障害のある方誰もが受け取ることができるわけではありません。
障害年金を受給するためには、下記の4つの条件を満たしていることが必要です。
監修者:「西川 暢春」からのワンポイント解説!
初診日が昭和61年4月1日よりも前にある方、初診日時点で共済組合に加入していた方は受給要件が異なる場合があります。
詳しくは年金事務所または初診日時点で加入していた共済組合へお問い合わせください。
▶参考情報:日本年金機構「全国の相談・手続き窓口」
条件1:
障害の程度が認定基準に該当していること
障害年金では、障害年金の受給対象となる障害の程度を、重い方から順に1級、2級、3級と区別しており、それぞれの傷病について、どの程度の症状があれば、どの等級に該当するのかが、「障害認定基準」で定められています。
初診日(障害について最初に医師の診察を受けた日をいいます)の時点で国民年金に加入していた方は1級または2級に該当する場合、厚生年金に加入していた方は1~3級に該当する場合、障害年金を受給することができます。
傷病ごとに細かい基準がありますが、等級の目安は下記の通りです。
- 1級:常に誰かの介助がなければ生活ができない程度
- 2級:日常生活に著しい支障が生じており働くことが難しい程度
- 3級:仕事に著しい支障が生じている程度
条件2:
20歳以上64歳以下であること
障害年金は、原則として、20歳から64歳までの方が申請することができます。
19歳以下の方や65歳以上の方は、他の福祉手当や老齢年金の対象となることから、障害年金の対象外となっています。
監修者:「西川 暢春」からのワンポイント解説!
初診日の時点の年齢が65歳未満だった場合や初診日が65歳以上でもその時に厚生年金や国民年金に加入していた方は、65歳以上になっても、障害年金の申請できる場合があります。
詳しくは以下をご参照ください。
条件3:
一定期間年金保険料を納めていること
障害年金は、民間の保険制度と同様に、保険料をきちんと支払い続けてきた方に支給されるものです。そのため、年金の保険料を支払っていない方は受給することができません。
障害年金を受給するためには、下記のいずれかの条件を満たしている必要があります。
- 1.初診日において65歳未満で、かつ、初診日のある月の前々月からさかのぼって直近1年の間に保険料の未納がないこと
- 2.20歳から初診日のある前々月までの期間のうち、2/3以上の期間、保険料を納めていること
これを「納付要件」といいます。「納付要件」については詳しくは以下をご参照ください。
▶参考情報:障害年金の納付要件を確認するための5つのステップ
ただし、20歳よりも前に初診日がある場合は、そもそも年金制度に加入できないため、上記納付要件はありません。
条件4:
初診日から原則1年6ヶ月が経過していること
障害年金は、病気や怪我があればすぐに申請できるわけではなく、病気や怪我のために初めて病院を受診した日から原則1年6ヶ月が経過しないと申請することができません。
ただし、人工関節やペースメーカーを装着した場合や、人工透析を受けている場合等、例外的に1年6ヶ月が経過していなくても申請ができるケースがあります。
3,対象となる傷病は?
障害年金は、傷病名ではなく、障害によってどのくらい日常生活や仕事に支障が生じているかで受給できるかどうかが判断されています。
ですので、対象になる傷病とそうでない傷病が明確に線引きをされているわけではありません。
例えば、下記のような傷病で受給することができます。
(1)受給対象となる傷病(一例)
うつ病、統合失調症、発達障害、知的障害、網膜色素変性症、緑内障、聴力障害、脳血管障害、脊髄損傷、心筋梗塞、狭心症、ペースメーカー装着、腎不全、肝硬変、人工透析、白血病、悪性リンパ腫、糖尿病、がん 等
4,障害年金の審査内容
障害年金の申請書類を提出すると、障害年金を受給する資格があるか審査が行われることになります。
審査項目は主に下記の3つです。
(1)添付書類についての審査
障害年金の申請には、診断書の他、年金請求書、病歴・就労状況等申立書、住民票の写し等、様々な書類が必要になります。ここでは必要書類が全て揃っているか、書類の記載内容に不備がないか等の審査が行われます。
障害年金申請に必要な添付書類については以下をご参照ください。
(2)納付要件の審査
「2,障害年金の受給要件は?」で「条件3」としてご説明した通り、障害年金を受給するためには初診日までに一定の期間年金保険料を納めている必要があります。
この納付要件を満たしていない場合は、どれだけ症状が重くても、残念ながら障害年金を受給することはできません。
ここでは、これまでの年金の納付記録と照らし合わせて、納付要件を満たしているか審査されます。
(3)障害の程度の審査
最も重要なのが、障害の程度についての審査です。
初診日の時点で国民年金に加入していた方は1級または2級、厚生年金に加入していた方は、1~3級に該当する場合、障害年金を受給することができます。
ここでは、提出した診断書等をもとに、障害の程度が障害年金の対象となる程度なのか、どの等級に該当するのか審査が行われます。
具体的な審査項目については、以下の記事で審査に通りやすくするためのポイントとあわせてご覧下さい。
5,障害年金の申請方法と流れ
障害年金を受給するためには、申請に必要な書類をそろえて、年金事務所へ提出する必要があります。全て書類で審査されるので、面接調査等はありません。
障害年金の申請手続きにはおおまかにいうと下記の7つのステップがあります。
(1)初診日を調べる
まず、最初にするべきことは初診日の調査です。
障害年金の申請では、この初診日が非常に重要になります。初診日が分からないと次のステップに進めないので、まずは自分が病気や怪我のために初めて病院を受診したのがいつだったかを確認しましょう。
初診日の確認については以下の記事をご参照ください。
(2)保険料の納付要件を調べる
障害年金を受給するためには保険料の納付要件を満たしている必要があり、満たさない場合は残念ながら障害年金を受給することはできません。
ある程度申請の準備を進めてから申請できないことがわかると準備した書類等が無駄になってしまうので、事前に納付要件を確認しましょう。
納付要件は年金事務所で調べてもらうことができます。
(3)初診日の証明書類を取り付ける
保険料の納付要件を満たしていることが確認できたら、次に初診日の証明書類を準備します。
代表的なものが、病気や怪我のために初めて受診した病院で書いてもらう「受診状況等証明書」という書類です。
初診日から時間が経っていて、初診病院にカルテが残っていなかったり、廃院していたりして、受診状況等証明書を書いてもらえない場合は、初診日や通院時期が特定できる資料を準備する必要があります。
初診日の証明については以下の記事をご参照ください。
(4)診断書を作成してもらう
初診日の証明書類が準備できたら、次は診断書の作成を医師に依頼します。
診断書は8種類あり、傷病や症状が出ている部位によってどの診断書を使用するかは異なります。
複数部位に症状が出ている場合は2種類以上の診断書を提出することもありますし、さかのぼって障害年金を請求する場合は時期の違う診断書を複数枚提出することもあります。
障害年金の診断書については以下の記事をご参照ください。
(5)病歴・就労状況等申立書を作成する
病歴・就労状況等申立書とは、発症から現在までの日常生活状況や就労状況を記載するもので、診断書のように医師に書いてもらうものではなく、障害年金の申請者が自分で作成するものです。
病歴・就労状況等申立書には発症から現在までの症状や、日常生活、就労状況等を医療機関ごとに3~5年の期間に分けて記載します。
監修者:「西川 暢春」からのワンポイント解説!
病歴・就労状況等申立書の記載内容が診断書の記載内容と矛盾している場合、症状の程度が正しく評価されず、適切な等級に認定しないこともあります。
申立書が作成できたら、診断書と見比べて、記載内容や症状の程度に矛盾がないかよく確認してください。
(6)その他の必要書類を準備する
障害年金の申請には、ここまでご紹介した初診日の証明書類、診断書、病歴・就労状況等申立書の他にもいくつかの書類が必要です。
必要書類は、請求方法や家族の有無、他の公的年金の受給の有無等、個々の方の状況によって異なりますが、主に下記のような書類が必要になります。
- 年金請求書
- 銀行口座の通帳またはキャッシュカードのコピー
- 障害者手帳のコピー
- 年金手帳
- 住民票またはマイナンバーカードのコピー
- 戸籍謄本(18歳未満の子どもや配偶者がいる場合) 等
申請に必要な書類については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
(7)申請書類を提出する
書類が全て準備できたら、申請書類一式を提出します。
提出先は、初診日に国民年金に加入していた方は市町村役場の年金担当窓口または年金事務所、初診日に厚生年金に加入していた方は年金事務所、初診日に共済組合に加入していた方は共済組合の年金担当窓口です。
郵送でも提出することができます。書類を提出する前に、すべての書類を見直して不備や矛盾がないか確認してください。
6,申請は自分でできるか?
障害年金は、自分で申請するのが難しいのではないか、自分で申請すると通りにくいのではないか、そう考える方もいらっしゃるのではないかと思います。
これについては正直なところ半々です。
ここまで読んでいただいた方はわかるかと思いますが、障害年金の申請のために複雑なルールがあったり、多くの書類が必要であったりします。
そのため、多くの方が申請が難しいと感じるのも事実です。実際、自分で申請をしようとしたが、難しくて断念したという方もいらっしゃいます。
しかし、反対に年金事務所や市役所の年金課の担当者と相談しながら自分で申請をして無事認定されている方も多くいらっしゃいます。
社労士などの専門家に依頼しようと思うとどうしても費用がかかってしまうので、やはり自分で申請ができるにこしたことはありません。
ただし、自分で申請をすることによって、書類に不備や矛盾があるために適切な等級に認定されなかったり、本来は受給できるはずなのに不支給になってしまったりするリスクがあります。
また、障害認定日から5年以上経過している場合や、事後重症請求の場合、申請が遅れれば遅れるほど、本来もらえたはずの年金が受け取れなくなってしまいます。
その点、社労士や弁護士といった専門家に任せてしまえば、費用はかかりますが、年金事務所とのやりとりや必要書類の用意などのほとんどを任せることができ、自分で行うより早くリスクを抑えて申請することができます。
また、障害年金の専門家であり、申請に関するあらゆるノウハウを持っているので、初診のカルテが残っていなくて初診日の証明ができない、一度自分で申請をして不支給になってしまった・・・そういった方についても、社労士に依頼することによって障害年金の受給ができるケースもあります。
手続きのために自分で年金事務所へいくのがつらい、初診日の証明ができない、一度申請して不支給になってしまった等、申請にあたって不安な点がある方は社労士に依頼するのもひとつの方法です。
監修者:「西川 暢春」からのワンポイント解説!
Q:「社労士に代行する場合の費用は?」
A:社労士へ障害年金の申請代行を依頼した場合、社労士費用が発生することがほとんどです。どのくらいの費用がかかるかは社労士事務所によって様々ですが、「障害年金の2か月分相当額」または「10万円」のいずれか高い方としている事務所が多いように思います。
また、ほとんどの社労士事務所では、障害年金が受給出来た場合のみ費用が発生する「成功報酬制」ですが、まれに依頼した時点でいくらかの費用(着手金)が発生する事務所もあります。
8,申請してから結果がでるまでどれくらい?
年金事務所へ書類を提出すると、日本年金機構で、障害年金の受給資格があるかどうか審査が行われます。
審査期間は、初診日時点で国民年金に加入していた方は約3か月、初診日時点で厚生年金に加入していた方は3か月半が目安になります。
ただし、書類に不備があった場合や、複数傷病で申請している場合、初診日の特定が不十分な場合等はこれ以上の審査期間がかかる可能性が高いです。
9,申請結果に満足いかなかった場合の対応
不支給になってしまった、思ったより等級が低く認定された等、申請の結果に満足がいかない場合は、審査結果に対して不服申し立てを行うことができます。
この不服申し立ての手続きを「審査請求」といいます。
審査請求の結果にも不服がある場合は、さらに「再審査請求」を行うことができます。
審査請求や再審査請求については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
10,まとめ
この記事では、障害年金に関する申請についてご説明しました。
障害年金は、病気や怪我で不安を抱える方にとって大きな支えとなる制度であり、誠実に年金の保険料を納めてきた方の当然の権利です。
この記事を読んで「自分も受給できるかも」と思った方は、ぜひ、お近くの社労士事務所や、年金事務所へ相談してみてください。