事後重症請求(初診日から1年6か月後の時点を過ぎてから症状が悪化し、診断書1枚で請求する方法)で障害年金を申請しようと初診日のある病院を探したところ、廃院になっていたり、病院の記録が破棄されていて証明書を書いてもらえなかった、といったご相談は弊事務所でもよく伺います。
弊事務所ではそういった問題を解決してきた実績がありますので、今回の記事では、初診日の証明方法について、実際にあったケースなども踏まえてご紹介していきます。
今回上げる方法で資料を集めることができれば、あなたも初診日を証明することができるかもしれません。
目次
1 事後重症請求でも初診日を証明しなければならない
初診日とは、「ケガや病気によって初めて医師の診察を受けた日」のことを指します。障害年金を請求するには必ず証明が必要ですので、事後重症請求でも初診日を証明しなければなりません。
通常障害年金請求の準備をする場合、初めに初診日を特定する必要がありますが、事後重症請求の場合は初診日が10年以上前で病院に記録が残っておらず、初診日が特定できないといった問題がおこりやすいです。
しかしこのような場合であっても、原則初診日をずらしたりすることはできません。
今回はそういった問題がある場合に、どのようにして初診日を特定すればいいのかご説明していきます。
2 初診日を特定しなければならない理由
初診日の証明方法をご説明する前に、初診日を特定しなければならない2つの理由を押さえておきましょう。
1つ目は「受給資格を確認するため」、2つ目は「年金の納付状況を確認するため」です。
2-1 受給資格を確認するため
障害年金は、「初診日の時点で加入していた年金制度」によって「障害基礎年金」、「障害厚生年金」のうちどちらが支給されるのか決まります。そのため、どちらに加入していた時期なのかを特定する必要があります。
初診日の時点で国民年金に加入していたのであれば、あなたは「障害基礎年金」の受給資格を持ち、初診日の時点で厚生年金に加入していたのであれば、「障害厚生年金」の受給資格を持ちます。
特に、初診日に厚生年金に加入していた場合は、最低でも初診日が「何年何月」にあるのかまで特定しなければ、「障害厚生年金」を受給することが非常に難しいです。
2-2 年金の納付状況を確認するため
障害年金を受給するためには、「初診日のある月の前々月までの一定期間、年金を免除または納付しているか」といった条件(納付要件)を満たしている必要があります。
この納付要件を確認するには初診日が基準となるので、初診日を証明しなければなりません。
この場合も、なるべく初診日が「何年何月」にあるのかまで特定する必要があります。
3 初診日を特定する4つの方法
初診日を受診状況等証明書の提出で証明できない場合でも、参考資料で特定することができます。
筆者が所属する、咲くやこの花法律事務所でおこなっている初診日の特定方法を4つお伝えします。
3-1 病院を受診したことがわかる書類を取り寄せる
初診日がある病院を受診したことがわかる、以下のような書類を取り付けましょう。
- 生命保険、損害保険、労災保険へ保険金を申請した際の診断書
→原本や写しが残っているかもしれません。保険会社や労災組合へ問い合わせましょう。 - 健康保険の給付記録(レセプトも含む)
→健康保険組合は、加入者が受診した病院の記録を5~10年保管しています。
当時の勤務先が加入していた健康保険組合や、市町村役場の国民健康保険課へ問い合わせましょう。
3-2 2院目、3院目の病院のカルテの写しを取り寄せる
初診日のある病院のあとに病院を変えた場合は、次の病院のカルテに、初診日のある病院を受診したことが書かれていないか確認しましょう。カルテは病院に頼めばコピーを開示してもらうことができます。
カルテの他、初診日のある病院からの紹介状や、2院目の病院を受診した際の問診票などに、初診日のある病院を受診していたことが書かれていれば、写しを参考資料として提出します。
●2院目、3院目に行くときに一緒に取り付けたい!受診状況等証明書● 障害年金を請求するためには「受診状況等証明書」(初診日を証明するための書類)が必要です。 通常は初診日のある病院で書いてもらう書類ですが、もしその病院で書いてもらうことができなかった場合は、どこかの病院で書いてもらい必ず提出する必要があります。 1院目で書いてもらえなかったら、2院目にお願いし、2院目で書いてもらえなかったら、3院目にお願いする…といった順で、受診状況等証明書を書いてもらえる病院をあたっていきましょう。 |
3-3 その他参考資料を探して提出する
初診日を特定するためには、「病院名、診療科、病名、受診日」が記載されている以下のような書類の写しも参考資料として提出することができます。請求前になるべく多く探して提出しましょう。
- 身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者手帳の申請時の診断書
- 母子健康手帳
- お薬手帳、糖尿病手帳、病院の領収書、診察券の写し
- 小学校、中学校の健康診断の記録や成績通知表
- 盲学校、ろう学校の在学証明、卒業証書
- 交通事故証明書、労災の事故証明書
- インフォームドコンセントによる医療情報サマリー
- 電子カルテの記録(氏名・日付・傷病名・診療科が確認できるもの) など
健康診断の結果が初診日の資料になることも
健康診断を受けた日は医師の診察を受けた日ではないので、原則初診日にはなりません。
ただし、検診結果に異常がみられ、医療機関への受診を指示されていることがわかる書類(病院への紹介状)などがあれば、それは初診日証明の資料になりえます。
3-4 第三者証明を提出する
請求者が申し立てる初診日について、第三者が証言したことを資料として提出することができます。
この書類の正式名は「初診日に関する第三者からの申立書」ですが、一般的に「第三者証明」と呼ばれています。
第三者証明だけでは原則初診日を認められませんが、協力者がいれば提出しましょう。第三者証明を書くことができる人は以下の2つのうちどちらかに該当する方です。
1.初診日頃に請求者が病院を受診していた事実を直接見たり、その当時聞いたりしていた(*)請求者の3親等以外の親族や友人、隣人、知人、民生委員など。2名以上に記入してもらう必要があります。3親等は本人またはその配偶者から見て、「父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、曾祖父母、曾孫、叔父叔母、姪甥」になるので、それ以外のいとこなどの親族であれば可能です。
(*)の例をご紹介します。
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2.初診日頃に請求者を直接診た医師、看護師、その他医療従事者。1名でも可能。
第三者証明に記載すべき事項
初診日のある病院に受診していたことについて、例えば友人が協力してくれることになったとします。以下に気を付けて記入してもらうようにしましょう。
〇2名以上に書いてもらう場合、傷病名、初診日、医療機関名・診療科、所在地については記入者全員に同じ内容で記入してもらうようにしましょう。(特に初診日は同じ内容で書いてもらいましょう。)
〇請求者の初診日頃の症状を知ったきっかけや、病院を受診した経緯、日常生活にどのような支障があったのか、知っている範囲で記入してもらいましょう。
→第三者証明の記入例(PDF)
4 初診日を証明し受給できたケース2選
筆者が所属する事務所では、ここまででご紹介した内容で初診日を証明できた事例があります。今回は一部例をあげてご紹介します。
4-1 初診日を一定期間まで特定したケース
請求者は統合失調症で障害基礎年金を請求しようとしていましたが、初診日が5年以上前にあり、初めて受診したA病院にカルテなどの記録が全く残っていませんでした。
2院目の病院にもそれ以前の受診歴が残っていなかったのですが、請求者のご両親がご自宅を掃除していた際に血液検査の結果が数枚見つかりました。
検査結果には、病院名、診療科、検査日が記載されており、1枚目の検査日と2枚目の検査日が3ヶ月しか離れていなかったため、「その期間に初診日がある」といった弁護士の意見書を添付して請求し、障害基礎年金2級に認定されました。
4-2 保険会社に提出した入院証明書で特定したケース
請求者は慢性腎炎から腎不全に至り、人工透析療法を受けていました。慢性腎炎の初診日は20年以上前にあり、初診日のあるM病院は廃院となっていたケースです。
保険会社に問い合わせて頂いたところ、M病院の次に受診したN病院の入院証明書が出てきました。
入院証明書には「M病院の初診日は昭和〇年〇月の初めごろ」とまでしか記載されていませんでしたが、「M病院受診後、投薬をおこなっても尿たんぱく値が減少しなかったため、M病院より(N病院へ)紹介受診された。」といった記載があったため、参考資料として提出しました。また、M病院受診日とN病院受診日が同月だったことも影響したようです。
申請から結果がでるまで2ヶ月程度で比較的短い審査期期でしたが、障害厚生年金2級に認定されました。
5 社会的治癒を主張できないか
最後に、「社会的治癒」についてご説明します。
社会的治癒とは、「治療をおこなう必要がなくなって、社会的に復帰している」ことをさします。
例えば学生の頃に初診日があったが、その後症状が良くなって治療を受けておらず仕事や日常生活にも全く影響のない期間が続き、数十年経ってから症状が再燃して病院を受診したといった場合は、社会的治癒を主張できる可能性があります。
このとき学生の頃の病気が社会復帰後に「治癒」していたことが認められれば、再燃した病気は「別傷病」とされるので、初診日を「再燃した際に初めて病院を受診した日」にすることができます。
なお平成23年の社会保険審査会決議では、
社会的治癒と認められるためには、相当の期間にわたって、当該傷病につき医療(予防的医療を除く)を行う必要がなくなり、その間に通常の勤務に服していることが必要とされる
と「社会的治癒」を認めていますが、この「相当の期間」や「通常の勤務」に関する明確な基準はなく、「医療を行う必要がなかったこと」をどのように証明するのかも不明瞭なため、認められるのは大変稀なケースです。
病院に行く必要がなかった期間が目安として5年以上あり、その事実が確認できる資料(前の病院の処方薬や通院期間の回数が減少していることがわかるなど)、その期間会社で仕事をしていたことがわかるような資料(たとえば厚生年金の加入記録や、同僚の証明、タイムカードなど)を集めることができれば、社会的治癒が認められる可能性があります。
ただし、相当の治癒期間と認められそうな期間があっても社会的治癒が認められない傷病もあるので注意が必要です。
社会的治癒を主張して申請する場合、1回目の申請では認められず審査請求・再審査請求に進むことが多いので、早めに障害年金を専門とした弁護士や社会保険労務士に相談しましょう。(医師や年金事務所や市役所の職員でも知らないことが多いようです。)
6 まとめ
今回の記事では、事後重症請求で障害年金を請求する場合の初診日の証明方法についてご紹介しました。
事後重症請求は、認定されれば申請書類を提出した月の次の月の分から障害年金を受け取ることができるので、できるだけ早く申請することがポイントになります。
初診日を証明するための資料がなかなか一人では集められない、といった場合は、お早目に、障害年金専門の弁護士や社会保険労務士に相談しましょう。
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