障害年金をもらうと、自分の勤務先の会社にそのことを知られてしまうのでしょうか?
あるいは、家族の扶養に入っている人が障害年金をもらうと、障害年金の受給を家族の勤務先に知られてしまうのでしょうか?
今回は、障害年金に詳しい弁護士が、この2つのよくある不安にわかりやすくご回答します。
この記事を読んでいただければ、きっと、会社に知られずに障害年金の申請をすすめていけるはずです。
それでは見ていきましょう。
目次
1 傷病手当金を申請すると障害年金受給を会社に知られる
結論から言うと、あなたが障害年金受給中に「傷病手当金」という別の制度の利用の申請をした場合は、障害年金を受給していることが自分の勤務先に知られる可能性があります。
以下でこの点についてご説明します。
「傷病手当金」という制度は、あなたが病気やけがで仕事ができなくなった場合に健康保険から、給料の約3分の2にあたる額が通常1年6か月間支給される制度です。
例えばあなたが障害年金を受給しながら仕事をしている期間中に、病気やけがで仕事を休むことになった場合のことを考えてみてください。
この場合、まずは有給休暇を使うのがよいですが、有給休暇を使い切った後は傷病手当金を申請することが考えられます。
そして、障害年金受給中に傷病手当金の申請をする場合、傷病手当金の申請用紙に障害年金受給中であることを記載する必要があるのです。
この申請用紙には会社に記載してもらう欄もありますので、傷病手当金の申請用紙に障害年金受給中であることを書けば、それをきっかけに勤務先に障害年金の受給を知られることが考えられます。
もちろん、どうしても会社に障害年金のことを知られたくなければ、病気で仕事を休んでも、傷病手当金を申請しなければ、知られずに済みます。
傷病手当金については通常1年6か月もらえるだけですが、障害年金は症状が軽くならない限り一生もらえます。
そのため、通常は、障害年金をもらうメリットは傷病手当金をもらうメリットよりも大きいです。
傷病手当金を申請すると会社にばれることが心配な場合でも、障害年金の請求はしたうえで、傷病手当金の請求を控えたほうがよいです。
なお、傷病手当金についてより詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
1-1 それ以外で受給を会社に知られることはない
そして、傷病手当金の申請以外の場面で、あなたが障害年金の受給を会社に知られることはありません。
前述のような障害年金受給中に傷病手当金の申請するようなケースは実際にはごくまれですので、通常は障害年金の受給が会社に知られることはないと言っていいでしょう。
2 受給が会社にばれるかについてのよくある質問
以下では、会社にばれるかどうかについてのよくあるご質問とその回答をご紹介したいと思います。
年末調整で会社に知られるか?
年末調整は、毎年年末に行われる税金の計算の手続きですが、障害年金は全額非課税ですので、あなたの所得税に関係しません。
そのため、年末調整の手続きをきっかけに障害年金の受給を会社に知られることはありません。
社会保険の手続きで会社に知られるか?
健康保険や厚生年金などの社会保険の保険料はあなたが会社から支給される給与の額に応じて決まります。
障害年金の受給額は社会保険料の額に影響しません。
そのため、社会保険の手続きに関連して会社に障害年金のことを伝える必要は全くありませんし、知られることもありません。
健康診断で会社に知られるか?
会社は従業員に年1回以上、健康診断を受けさせる義務があり、その診断結果は会社が把握しています。
しかし、会社が健康診断の結果を見たからといって、健康診断結果にあなたが障害年金を受給していることが記載されるわけではないです。
そのため、健康診断をきっかけに会社に障害年金をもらっていることを知られることもありません。
マイナンバーから会社に知られるか?
会社はマイナンバーを税金や社会保険の手続きのために使用しますが、マイナンバーというのはこれらの会社の手続きを行政機関の側で効率よく受け付けるための制度です。
会社がマイナンバーを使って行政機関からあなたの情報を取得できるわけではないため、マイナンバーを伝えたことによって障害年金のことを会社に知られることはありません。
3 就職や転職で就職先に受給が知られることもない
現在あなたが無職で就職を考えている場合や、現在転職を考えている場合、就職先に障害年金のことを知られないか心配な人もいるでしょう。
しかし、結論から言えば、障害年金を受給していても、新しい就職先にあなたが障害年金受給中であることを知られることはありません。
なぜなら、あなたが障害年金をもらっていたとしても、その事実はあなたのプライバシーにかかわる情報として完全に保護されているからです。
あなたが言わない限り、就職先に障害年金を受給していることを知られることはありません。
就職や転職を検討している場合でも、安心して障害年金の手続きを進めてください。
4 扶養に入っていても家族の勤務先に知られることは原則ない
家族の扶養に入っている人が障害年金を申請する場合、家族は、年末調整や社会保険の手続きの関係で、あなたに関する情報を勤務先に申告することになります。
しかし、この場合も、障害年金の受給が家族の勤務先にばれることは原則としてありません。以下で詳細を解説したいと思います。
4-1 年末調整の手続きで家族の勤務先に知られることはない
家族の扶養に入っている場合、毎年、年末調整の際に、家族は勤務先に「扶養控除等申告書」という用紙を提出します。
そこでは、扶養している家族の収入の額を書く欄や扶養している家族が障害者かどうかを記載する欄があります。
しかし、まず、扶養している家族の収入の額を書く欄については、その収入が障害年金の支給を受けたことによるものであることを記載する必要はありません。
また、扶養している家族が障害者かどうかを記載する欄については、あなたの家族は、あなたが障害者に該当すると申告すれば、「所得税の障害者控除」を受けることができ、税金が減るというメリットを受けることができます。
しかし、この所得税の障害者控除を受けるためには、あなたの家族はあなたが障害年金をもらっていることを申告しなければならないわけではなく、申告する必要があるのは、あなたが障害のある状態にあることだけです。
また、あなたの家族がこの税金の優遇措置を受けることを希望しない場合は、あなたの配偶者が会社にあなたが障害の状態にあることを申告する必要はありません。
このようなことから、あなたが障害年金を受給しても、家族の年末調整の手続きで、家族の勤務先に障害年金の受給が知られることはありません。
4-2 社会保険の手続きで家族の勤務先に知られることはない
社会保険については、あなたが家族の扶養に入っている場合、あなたの家族は勤務先にあなたの所得を申告する必要がある場合があります。
これは、所得が高い人は扶養に入れないため、あなたが扶養に入れる所得条件を満たしているかを確認するためのものです。
しかし、あなたの所得を申告する場面でも、あなたの所得が障害年金を受給していることによるものであることを申告する必要はありません。
そのため、社会保険の手続きをきっかけに障害年金のことを知られることもないのです。
4-3 受給が家族の勤務先に知られる2つのケース
例外的に障害年金の受給が家族の勤務先に知られるのは、「障害年金を受給することで扶養から外れるとき」と「障害年金受給中に新たに家族の扶養に入るとき」の2つのケースです。
障害年金を受給することで扶養から外れるとき
もし、あなたの年収が障害年金による収入も含めて180万円を超えると、あなたは、家族の扶養に入ることができなくなります。
そして、この場合、家族の勤務先にあなたが障害年金を受給していることを知られることがありますので注意が必要です。
扶養から外れるときに、あなたの収入が180万円以上であることを確認するために、障害年金の受給額を確認できる年金通知書の写しなどを、家族の勤務先に提出する必要があるためです。
障害年金だけで年収180万円を超えることはあまりありませんが、あなたが家族の扶養に入りながら、パートなどで働いている場合は、年収180万円を超えることがあるので注意が必要です。
補足
扶養から外れた場合、あなたは、自分で国民健康保険料と国民年金保険料を納めることになりますが、これは合計で1か月あたり約25,000円です。
障害年金は最低額でも毎月約5万円なので、障害年金を受給することであなたが家族の扶養から外れたとしても、障害年金の受給額が扶養から外れたことによる負担増を上回ることは確実です。そのため、扶養から外れるとしても障害年金を受給したほうがよいです。
扶養から外れることによる負担増と障害年金受給によるメリットの比較について詳しくはこちら
障害年金受給中に新たに家族の扶養に入るとき
障害年金受給中にあなたが勤務先を退職して家族の扶養に入ったり、あなたが結婚して配偶者の扶養に入る場合も、家族の勤務先に障害年金受給を知られることがあります。
これは、扶養に入るためにはあなたの年収が障害年金による収入も含めて180万円未満であることが条件になりますが、この点を確認するために、障害年金の受給額を確認できる年金通知書の写しなどを、家族の勤務先に提出する必要があるためです。
どうしても家族の勤務先に障害年金受給を知られたくない場合は、扶養に入った後に障害年金を申請すれば知られずに済みます。
5 まとめ
今回は、障害年金をもらった場合に、会社に知られるかどうかということについてご説明しました。
特別なケースを除いて会社に知られることなく、障害年金を受給できることを理解していただけたのではないかと思います。
仮に障害基礎年金2級を30年間もらえば、障害基礎年金2級の平均受給額は月額66,358円なので、30年で(年額の障害年金を30年間もらえば、総受給額は約2400万円にもなります。)
このように障害年金はもらえるとメリットが非常に大きいので、もらえる場合は必ず申請しておくことをおすすめします。
具体的な病気ごとの進め方については以下の記事で詳しく解説していますので、参照してください。
▶うつ病の障害年金の申請のポイント
▶統合失調症の障害年金の申請のポイント
▶自閉症の障害年金の申請のポイント
▶てんかんの障害年金の申請のポイント
▶知的障害の障害年金の申請のポイント
▶高次脳機能障害の障害年金の申請のポイント
▶認知症の障害年金の申請のポイント
▶脳梗塞の障害年金の申請のポイント
▶糖尿病の障害年金の申請のポイント
▶緑内障の障害年金の申請のポイント
▶ぜんそくの障害年金の申請のポイント
▶ペースメーカーの障害年金の申請のポイント
▶人工関節・人工骨頭の障害年金の申請のポイント
▶人工透析の場合の障害年金の申請のポイント
▶がんの障害年金の申請のポイント
患者団体や病院の方、あるいは報道機関から、この記事を利用したいとのお問い合わせをいただくことがあります。
障害年金の制度を患者の方にお伝えいただく目的で使用いただくのであれば、無償で利用していただいて結構です。
ただし、以下のルールを必ず守っていただきますようにお願いいたします。
- 記事は修正しないでそのまま使用してください。
- 咲くやこの花法律事務所の記事であることは使用の際に明示をお願いいたします。
- 紙媒体での使用のみとし、記事をインターネット上にアップロードすることは禁じます。
- 患者団体または病院関係者、報道機関以外の方の使用は禁じます。