精神疾患は治療が長期化するケースも多く、医療費の負担は大きいものです。
そんな精神障害者の医療費負担を軽減してくれる制度の1つに「自立支援医療制度」があります。自立支援医療制度を使えば、医療費の負担が現在の3分の1になります。
今回はそんな自立支援医療制度の概要や対象者、申請方法などについてご紹介します。
1 自立支援医療
自立支援医療は、精神障害者の通院治療や身体障害者が手術を受けることによって確実に障害が除去・軽減される治療を対象に医療費の自己負担額が軽減される制度です。
自立支援医療には精神通院(精神障害の方を対象とするもの)、更生医療(身体障害者の方を対象とするもの)がありますが、今回は、精神通院に限定してご説明します。
1-1 自立支援医療の対象者
自立支援医療の対象となるのは、「精神疾患により、定期的な通院・治療を続ける必要がある方」です。
以下のような様々な精神疾患が対象となります。
・統合失調症
・うつ病、躁うつ病などの気分障害
・薬物などの精神作用物質による急性中毒又はその依存症
・PTSDなどのストレス関連障害や、パニック障害などの不安障害
・知的障害、心理的発達の障害
・アルツハイマー病型認知症、血管性認知症
・てんかん など
ただし、上記のような精神疾患と診断されていればすべての方に支給されるわけではなく、一定の症状の程度を満たしている必要があります。
申請の際に提出する診断書の内容を元に審査が行われ、自立支援医療制度の対象になると認定された場合は、「自立支援医療受給者証」が交付され、医療費の助成を受けることができます。
1-2 自立支援医療で受けられる3つの医療費軽減制度
では、実際に自立支援医療制度を利用することでどのような医療費の軽減を受けることができるのでしょうか。
自立支援医療を利用することで受けられる3つの医療費軽減制度についてご紹介します。
医療費の自己負担が1割になる!
通常、医療費の自己負担は3割ですが、自立支援医療制度を利用することによって医療費の自己負担が3分の1の1割になります。
例えばこれまで、病院の窓口で2,400円の医療費を支払っていた場合、自立支援医療制度を利用することで、窓口で支払う額が800円になります。
減額の対象となる医療費は、外来通院の治療費や薬代、デイ・ケアの費用、訪問看護の費用等です。
入院医療費や公的医療保険の対象にならない治療や投薬の費用、精神疾患と関係のない病気の医療費は自立支援医療による医療費の減額の対象にはなりません。
1月あたりの自己負担に上限ができる
1-2-1でご説明したとおり、自立支援医療制度を利用すると医療費の自己負担は1割になりますが、通院回数が多い方などは、1割でも負担が大きくなってしまいます。
そのため、自立支援医療制度では、世帯所得が低い利用者に限られますが、1月あたりの上限額を設けて、上限を超えた医療費は負担しなくてよいことになっています。
世帯の収入状況 | 自己負担上限額 |
生活保護受給世帯 | 0円 |
市町村民税非課税世帯 (本人の収入が800,000円以下) |
2,500円 |
市町村民税非課税世帯 (本人の収入が800,001円以下) |
5,000円 |
市町村民税33,000円未満 | 総医療費の1割または 高額医療費の自己負担限度額 |
市町村民税33,000円以上235,000未満 | |
市町村民税235,000円以上 | 対象外 |
症状が重い場合は更に負担が軽減される
精神疾患の中には統合失調症など、長期にわたって高額な医療費のかかる治療を受け続けなければならない方もいらっしゃいます。このような状態は「重度かつ継続」と呼ばれます。
「重度かつ継続」状態の方で市町村民税課税世帯の方は、1-2-2の上限とは別に更に低額な上限が設けられ、上限を超えた医療費は負担しなくてよいことになっています。
世帯の収入状況 | 自己負担上限額 |
生活保護受給世帯 | 0円 |
市町村民税非課税世帯 (本人の収入が800,000円以下) |
2,500円 |
市町村民税非課税世帯 (本人の収入が800,001円以下) |
5,000円 |
市町村民税33,000円未満 | 5,000円 |
市町村民税33,000円以上235,000未満 | 10,000円 |
市町村民税235,000円以上 | 20,000円 |
※「重度かつ継続」状態とは… (2)以下に該当する精神疾患の場合 (3)3年以上精神医療を経験している医師から、情動および行動の障害または不安および不穏状態を示すことから入院によらない計画的かつ集中的な精神医療が続けて必要であると判断された場合 |
1-3 自立支援医療の申請方法
ここまで自立支援医療の対象者や制度についてご紹介しました。ここからは、実際に自立医療支援制度を利用するための申請手続きについてご紹介します。
申請は基本的には「書類を揃えて提出する」だけです。
申請はお住まいの市町村の福祉担当窓口で受け付けています。市町村によって受け付けている係の名前が異なりますので(障害福祉課や保険福祉課など)、事前に市町村のホームページなどで確認されることをおすすめします。
申請には以下のような書類が必要になります。
自立支援医療制度は自治体毎に運営されている制度のため、自治体によって必要書類が異なる場合があります。事前に市町村役場の担当窓口や精神保健福祉センターに問い合わせたり、市町村のホームページでご確認ください。
各市町村役場のサイトから必要書類の書式をダウンロードできることもあります。
主な必要書類 ・申請書(自立支援医療支給認定申請書) ・診断書(指定書式のもの) ・世帯の所得の状況が確認できる資料(課税・非課税証明書、年金の振込通知書など) ・健康保険証のコピー ・マイナンバーが確認できる書類 など |
申請の結果、自立支援医療制度の対象になると認定された場合は、「自立支援医療受給者証」が交付され、医療費の助成を受けることができます。
1-4 自立支援医療受給者証の有効期限は1年
自立支援医療制度は一度対象になったら、ずっと利用できるものではありません。
交付される受給者証の有効期限は1年以内のため、継続して自立支援医療制度を利用したい場合は、1年毎に更新が必要になります。
有効期限終了のおよそ3ヵ月前から更新の手続きを行うことができます。
1-5 要注意!医療費の軽減の対象となるのは市町村指定の医療機関だけ!
この制度を利用するにあたって、1点注意しなければならない点があります。
それは、自立支援制度で医療費の軽減を受けることができるのは、各都道府県が指定している特定の医療機関や薬局に限られるということです。
各都道府県が指定した病院や薬局以外では、残念ながら医療費の軽減を受けることはできません。現在通院している病院で自立支援医療制度を利用したい方や通院を希望する病院がある方は、その医療機関が都道府県の指定病院になっているか、事前に確認しましょう。
指定病院なっているかは、病院に聞くか、市役所の福祉担当窓口、精神保健福祉センターに問い合わせて確認したり、市役所のホームページなどで確認することができます。
2 自立支援医療制度のデメリット
ここまで説明したように、自立支援医療制度は精神疾患患者にとって医療費の負担を軽くしてくれる心強い制度です。
しかし、自立支援医療制度を利用することによって何かデメリットがあるのではないかとご不安な方もいるのではないでしょうか。ここからは自立支援医療制度を利用することによって生じる可能性のあるデメリットについてご説明します。
2-1 利用できる医療機関が限られている
まず、1つ目のデメリットとしては、利用できる医療機関が限られていることです。
1-5でご説明したとおり、自立支援制度で医療費の軽減を受けることができるのは、各都道府県が指定している特定の医療機関や薬局に限られます。
そのため、ご自身が通院している病院が指定病院でなければ、希望の病院で制度を利用できないこともあります。
また、自立支援医療制度を利用するためには、あらかじめ、自分が受診する病院を登録しておく必要があります。病院と薬局はそれぞれ1つずつしか登録することができません。
そして、登録した病院と薬局は自立支援医療受給者証に記載され、受給者証に記載されている病院や薬局でのみ医療費の軽減を受けることができます。
そのため、複数の病院を受診したり、受給者証に書いていない病院で診察を受けても医療費の軽減を受けることはできず、利用できる医療機関が限られてしまいます。
2-2 転院する際に手続が必要になる
2-1でご説明したとおり、自立支援医制度を利用するためには、あらかじめ、自分が受診する病院を登録しておく必要があります。
そのため、今通院している病院から転院して別の病院で自立支援医療制度を利用したいと考えた場合は、市役所へ行き、転院先の病院を登録しなおす必要があるのです。
自立支援医療制度を受給することによって生じるデメリットは主に上記の2点です。しかし、多少の医療機関の制限や手続きの煩雑さはあっても、医療費の自己負担が1割になるメリットは大きいものです。
迷っている方は申請することをおすすめします。
3 自立支援医療制度と併用できる様々な障害者支援制度
自立支援医療は心強い制度ですが、障害のために働けなかったり、収入が途絶えてしまうなど、不安はなくならないものです。
ここからは自立支援医療制度とあわせて知っておくと安心な障害者支援制度をご紹介します。
3-1 高額療養費制度
高額療養費制度は、医療機関で支払った医療費が国の定める上限額(月々)を超えた場合に、その超えた額を支給してもらえる制度です。高額療養費制度は入院治療費も対象になります。
例えば、入院をした場合一ヶ月の医療費が数十万円にのぼることも少なくありません。その際に、この高額療養費制度を利用することで医療費の自己負担を大幅に減らすことができます。
上限額は、年齢や所得に応じて定められています。
助成内容
月々の医療費が上限額を超えた場合に、その超えた額を負担してもらうことができる。
69歳以下の場合の上限額は下記の通りです。
年収 | 1ヶ月あたりの上限額(世帯ごと) |
約1160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
約770万円~約1160万円以下 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
約370万円~約770万円以下 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
約370万円以下 | 57,600円 |
住民税非課税の場合 | 35,400円 |
どのような人が対象になるか
健康保険の加入者の方
手続き方法
ご自身が加入している健康保険に申請します。国民健康保険に加入している場合は市町村が窓口です。必要書類は加入している健康保険によって異なるので、詳しくはご自身が加入している健康保険に確認してください。
<必要書類の一例>
・支給申請書
・病院の領収書
3-2 障害者手帳
障害をお持ちの方が、市町村に申請することによって取得できるものです。
障害者手帳を持っていることで様々なサービスを受けることができます。障害の程度や種類、自治体によって受けることができるサービスは異なりますが、下記のようなものがあります。
・所得税、住民税等の各種税金の控除
・各種公共交通機関の運賃割引
・各種公共施設(博物館、美術館、映画館)の利用料の割引
・携帯電話料金など、通信費の割引
障害者手帳については以下の記事で詳しくご説明していますのでご参照ください。
▶障害者手帳にはどんな種類がある?3種類の手帳について解説します!
3-3 障害年金
障害年金は病気やけがで仕事ができなかったり、仕事に制限がある20歳以上の人に支給される年金です。一般的な年金と異なり、若いうちから支給を受けることができます。
原則、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日)から1年6ヶ月経過した日から申請することが可能です。
支給額は病状や家族構成に応じて、月5万円から15万円程度になることが多いです。
受給するためには、初診日までに一定の年金の保険料を納めているという条件や障害の程度に関する条件があるため、全ての方が受給できるものではありませんが、精神疾患で受給している方も多くいらっしゃるので、病気のために長く働けない状態が続いている方は申請を検討してはいかがでしょうか。
障害年金については以下の記事で詳しくご説明していますのでご参照ください。
▶障害年金とは何?基本の基本をどこよりもわかりやすく解説!
3-4 生活保護
障害のために働くことができなくなり、経済的に困ったときに、最低限度の生活を保障してくれる制度が生活保護です。障害の程度によっては生活保護に障害手当がつくこともあります。
また、生活保護を受給した場合、医療費は全額市町村が負担するため自己負担はありません。
障害年金を受給しても経済的に苦しい、障害年金だけでは生活ができない場合、国が定める基準をクリアしていれば、生活保護を受給することも可能です。
障害年金を受給しても、月々の収入が最低生活費に満たない場合は、その差額が生活保護費として支給されます。
生活保護と障害年金について詳しくはこちらの記事をご参照ください。
▶同時受給できる?生活保護受給者が障害年金を申請するメリットを解説
4 まとめ
今回は精神疾患患者の医療費を軽減する自立支援医療制度について、制度の概要、対象者、申請方法についてご説明しました。
自立支援医療制度は医療費の自己負担が1割になる制度で、定期的な通院を必要とする精神疾患患者にとってはとても心強い制度です。まだ申請をしていない方は、ぜひ申請することをおすすめします。
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