先天性疾患で障害年金が受給できるのか?初診日はいつになるのか?等ご不安に思う方も多いのではないでしょうか。
実は障害年金は、先天性疾患でも受給することができます。
先天性疾患で障害年金を申請する時、問題になるのが「初診日」です。障害年金では、生まれつきの病気だからといって、全ての障害の初診日が生まれた日になるとは限りません。
今回は、先天性疾患で障害年金を申請する時に、初診日がいつになるのかを3つのケースに分けてご説明します。
1 先天性疾患でも障害年金は受給可能!
障害年金を受給するためには、「年金の保険料を納めていることが条件」と聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
障害年金は、申請した方全てが受給できるものではなく、いくつかの条件を満たした方にのみ支給されるものです。その条件のひとつに「保険料の納付要件」があります。
生まれつきのご病気で障害年金の申請を検討している方の中には、保険料を納めていないため、障害年金は受給できないのではないかと不安に思われる方もいるかもしれませんが、実は先天性の病気でも障害年金を受給することは可能です。
そもそも年金制度に加入できるのは原則20歳からです。20歳以前は、年金制度に加入することも、年金を納めることもできません。
そのため、特例として、年金に加入できる20歳よりも前に初診日がある場合は、保険料を納めていなくても障害年金を受給することができます。
しかし、先天性の病気すべてが、生まれた日が障害年金上の初診日になるとは限りません。医学的な初診日と障害年金上の初診日は異なるためです。
ここからは、先天性の疾患と障害年金上の初診日についてご説明します。
2 生まれた日が初診日になるとは限らない
先天性疾患で障害年金を申請する際に、注意が必要なのは「いつを初診日として申請するのか」という点です。
実は、障害年金においては、先天性疾患だからと言って、生まれた日が初診日になるとは限りません。
障害年金は、初診日の時点で加入していた年金の加入制度によって、受給できる障害年金の種類が決まっています。
初診日時点で国民年金に加入していた又は20歳未満だった方は障害基礎年金、厚生年金に加入していた方には障害厚生年金の対象となります。
障害基礎年金と障害厚生年金では、受給金額や対象となる障害の程度が異なっています。
障害厚生年金の対象となると、初診日までに納めた保険料に応じた年金が支払われる上、障害基礎年金が対象となる障害の等級が1級、2級しかないのに対し、障害厚生年金は1~3級まで設けられており、比較的障害の程度が軽くても受給できる可能性があります。
ご自身がどこを初診日として申請するべきなのか理解しておかないと、知らず知らずのうちに、ご自身にとって不利な内容で申請を出してしまうこともありうるのです。
障害年金において、初診日として扱われる日には以下のようなものがあります。
初診日とは・・・? (1)一番初めに医師または歯科医師の診療を受けた日 (2)先天性の知的障害 (3)先天性心疾患、発達障害、網膜色素変性症など (4)過去の傷病が治癒し(社会復帰し、治療の必要のない状態)、同一傷病で再度発症している場合 |
以下で詳しくご説明します。
2-1 知的障害の場合
知的障害の場合は、生来性疾患のため、原則生まれた日が初診日という扱いがされています。
幼少期の検診で知的障害と診断されても、就学期間中に検査を受けて知的障害と診断されても、20歳を超えてから知的障害と診断されても、いつ診断されても全て障害年金上の初診日は生まれた日になります。
そのため、知的障害の場合は、原則として障害基礎年金の対象になります。
知的障害で障害年金を申請する際のポイントはこちらの記事もご参照ください。
2-2 網膜色素変性症、発達障害、先天性心疾患等の場合
網膜色素変性症や発達障害、先天性心疾患等は全て遺伝性であったり、生まれつきの脳機能や心臓機能の病気です。
そのため、生まれた日が初診日になると誤解されている方も多いと思います。
しかし、これらの疾患は生まれてすぐには判明せず、症状が進行することによって初めて異常に気がつき、診察を受けて病気が判明することが少なくありません。そのため、これらの疾患の初診日は「病気のために初めて病院を受診した日」とされています。
病気のために初めて病院を受診した日に厚生年金に加入していれば、障害厚生年金の対象となり、比較的軽い症状であっても受給の可能性があります。
網膜色素変性症で障害年金を申請する場合
発達障害で障害年金を申請する場合
2-3 長期間治療を受けていなかったが、再発した場合
先天性疾患の中には、幼少期に発症したが治療によって症状が回復し、その後長期間にわたって症状がなかったが、大人になって再発するというケースも少なくありません。
日常生活や就学、仕事も問題なくできていたにもかかわらず、過去に治療を受けていたという理由で、初めて病院を受診した日を初診日としてしまうのは、あまりにも不利な扱いです。
そのため、障害年金では社会的治癒という考え方があります。社会的治癒とは、因果関係のある傷病であっても、長期にわたり症状がなく、日常生活も支障なく送れていたような場合に、障害年金上においては、別々の傷病として扱うことができるという考え方です。
これによって、病気を発症した時に未成年で障害基礎年金の対象となる方も、再発した日に厚生年金に加入していれば、障害厚生年金の対象となり、障害の等級が3級でも障害年金が受給できたり、障害基礎年金と比べて受給額が上がる等のメリットがあります。
社会的治癒とは… (1)無症状で就労や通常の日常生活が支障なくできていること |
社会的治癒が適用されるためには、病歴・就労状況等申立書を出生から記載し、運動や就労に支障がなかったことや、長期間に渡り自覚症状がなく、治療の必要もなく、日常生活に支障が生じていなかったことを説明することが重要になります。
<社会的治癒として扱われる例>
先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が原因の変形性股関節症
先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全は変形性股関節症の原因となる傷病であり、変形性股関節症になる方の約8割は、これらの傷病が原因で変形性股関節症を発症しているといわれています。
先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全と診断されている場合、生まれつきの傷病が原因=生まれた日が初診日と判断されてしまう可能性もあるので、障害年金を申請する際に特に注意が必要になります。
しかし、出生時や幼少期に先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全と診断されていても、矯正等の治療によって回復し、その後長期間にわたって症状がなく、日常生活に支障がなく、運動も問題なくできていたという方も少なくありません。
また、これまで一度も先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全と診断されたことはなく、変形性股関節症で病院を受診して初めて、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全と診断された方もいるのではないでしょうか。
このような場合は、例えば幼少期に先天性股関節脱臼と診断されていても、その後長期に渡って症状がない状態が続いたのちに、変形性股関節症と診断されたような場合には、変形性股関節症で初めて病院に受診した日を障害年金における初診日として、初診日に加入していた年金制度が厚生年金であれば、障害厚生年金の対象となります。
ただし、社会的治癒の認定はハードルが高く、1回目の申請では認められないこともたびたびあるため、自分で申請をすることに不安がある方は、障害年金を専門に取り扱う社会保険労務士に相談するのもひとつの方法です。
以上が、先天性疾患に対する障害年金上の初診日の考え方です。
ただし、実際いつが初診日になるのかは、個々の方のご状況や経過による部分も多いので、申請前に一度年金事務所等で相談いただくことをお勧めします。
どこを初診日にして申請するかが決まったら、障害年金の申請手続きをすすめましょう。実際に障害年金を申請する際の手続きは以下の記事も参考にしてみてください。
初診日が20歳より前にある方
初診日が20歳より後にある方
3 まとめ
今回は、(1)先天性の障害でも障害年金を申請できること、と(2)先天性疾患の障害年金上の初診日について、解説しました。
知的障害の場合は生まれた日が初診日、発達障害や網膜色素変性症・先天性心疾患等は症状が現れて初めて病院を受診した日が初診日、長期間治療を受けていなかったが再発した場合は再発してから初めて病院を受信した日が初診日になる可能性があります。
この記事が、先天性疾患で障害年金を請求する方のお役に立てば幸いです。
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