人工弁の装着によって症状が改善されてもいつか病気が再発するかもしれないと不安に思う方も多いのではないでしょうか。
そんなとき障害者の生活を支えてくれる制度のひとつに障害年金があります。
障害年金が受給できた場合、最低でも年間58万4500円が支給されます。障害年金があるかないかで生活は大違いです。
しかし、障害年金は申請すればすべての方に支給されるものではありません。障害年金を受給するためには、日本年金機構の定める一定の条件を満たしている必要があります。
今回は人工弁置換の障害年金の認定基準や申請する際のポイントをご説明します。
この記事を読めば、ご自身が障害年金を受給できるかどうかおおよその目安がわかるはずです。
1 人工弁を置換していると原則3級に認定される!
また、障害年金では、それぞれの傷病について「このくらいの障害の程度であれば〇級相当」と基準が設けられています。これを障害年金の認定基準と言います。
認定基準では人工弁を装着している場合は原則3級に認定すると規定されています。
ここで重要になるのが、「初診日に加入していた年金制度」です。
初診日とは「人工弁を装着する原因となった病気のために初めて病院を受診した日」のことです。
障害年金では、初診日に加入していた年金制度によって、受給できる年金の種類が決まっています。
初診日に厚生年金に加入していた場合には障害厚生年金、国民年金に加入していた場合には障害基礎年金の対象になります。
障害厚生年金では1級から3級のいずれかに該当した場合、障害基礎年金では1級または2級のどちらかに該当した場合に障害年金が支給されます。
初診日に厚生年金に加入していた場合は3級でも障害年金を受給することができますが、それに対して、初診日に国民年金に加入していた場合は3級では障害年金が支給されません。
人工弁を装着している場合は原則3級に認定されるため、人工弁置換で障害年金を受給するためには、初診日に厚生年金に加入していたことがひとつの大きなポイントになります。
なお、複数の人工弁を装着していても装着している人工弁の数に関わらず、原則3級になります。
2 2級以上に認定されるケース
1章で、人工弁の装着は原則3級に認定されるとご説明しましたが、人工弁を装着した後の経過によっては2級以上に認定されるケースもあります。
ここからは2級以上に認定されるケースについてご説明します。
認定基準によると2級以上に認定されるケースについては下記の通り規定されています。
等級 | 障害の状態 |
2級 | 人工弁を装着術後、6ヶ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般区分状態のウ又はエに該当するもの |
こちらの規定についてひとつずつ詳しくご説明します。
(1)臨床所見
臨床所見とは診断書の記載項目の1つです。自覚症状と他覚所見の2つの項目がありますが、この内、人工弁置換の原因となった病気の症状をあらわす所見が5つ以上あることが1つの条件になります。
(2)異常検査所見
診断書にはいくつか検査項目を記入する欄があります。それらの検査所見が異常を示している場合、この異常検査所見に該当します。
検査所見についてはお医者様が判断することなので、あまり気にしても仕方のない部分ですが、気になる方は認定基準であげられている異常検査所見を一部例示しますのでこちらのリンクをご参照ください。異常検査所見例
(3)一般状態区分
障害年金の診断書では、日常生活への支障の程度を5つの段階に分けて示した「一般状態区分」という項目があります。
人工弁置換で2級以上に認定されるためには、日常生活に支障があり、軽い家事や事務作業もできない程度、つまり以下の区分のうち少なくとも「ウ」「エ」のいずれかに該当する必要があります。
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起きているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
3 診断書を依頼する際の注意点
障害年金を申請するためには医師の作成した診断書を提出する必要があります。診断書は障害年金の申請にあたって一番重要な書類です。
障害年金は書類審査であり、審査官と一度も面談することなく提出した書類の内容ですべてが決まってしまいます。
どんなに症状が重くても、日常生活に支障が出ていても、提出した書類でそれが伝わらなければ不支給になってしまうこともありえるのです。
どんなに症状が出ていても、そのことが診断書の記載されていなければ、ないものとして扱われてしまいます。
お医者さんに診断書を作成してもらったら、記入漏れがないかしっかり確認してください。
4 原則人工弁を装着したその日から障害年金を申請できる!
障害年金は通常、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日)から一定期間を経過しなければ、障害年金を請求することができません。
この期間は原則1年6ヶ月と定められており、1年6ヶ月経過した日のことを「障害認定日」と言います。
この障害認定日には一部例外があり、人工弁の装着もその例外のひとつです。
人工弁を装着した場合は、病気のために初めて病院を受診した日から1年6ヶ月が経過していなくも、手術を受けたその日から障害年金を請求することができます。
ただし、手術を受けた日が初診日から1年6ヶ月よりも後だった場合は、1年6ヶ月経った日から障害年金を請求することができます。
5 まとめ
今回は、障害年金における人工弁置換の認定基準についてご説明しました。
人工弁を装着している場合は原則3級に認定されます。
その上で、人工弁を装着してから6ヶ月がたっても、日常生活や仕事に支障が出ていたり、病気の症状が出ている場合は2級以上に認定される場合もあります。
この記事が皆さんの障害年金申請のお役に立てば幸いです。
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