「生活保護と障害年金の同時受給が可能どうか?」
「生活保護と障害年金の2つの制度の関係がわからない」
このようなことで悩んでいませんか?
生活保護と障害年金は両方の違いを理解したうえで同時受給していくことがおすすめです。
今回は、「生活保護受給中に障害年金を申請するメリット」や、「障害年金受給後の生活保護費返還制度の内容」、「生活保護と障害年金の違い」などについて、わかりやすくご説明します。
2つの制度をよく理解して活用していきましょう。
目次
1.生活保護受給中も障害年金は申請できる?
生活保護受給中でも障害年金を申請することは可能です。
ただし、障害年金の額だけ生活保護費が減額されます。
▶参考情報:障害基礎年金と障害厚生年金について、それぞれ詳しく解説した参考記事は以下をご参照ください。
2.障害年金が生活保護費より高い場合は、障害年金申請により収入を増やすことができる
受給している生活保護費が少なく、障害年金のほうが高くなる場合は、障害年金を申請するべきです。
例えば、持ち家に居住していて、収入があるが、足りない分について生活保護を受けているなどのケースでは、障害年金の額が生活保護費の額よりも高くなるケースがあります。
このような場合は、障害年金を申請することによって、毎月の収入を増やすことが可能です。
そして、障害年金の受給が開始されると、生活保護は終了されます。
(1)障害年金の額と生活保護費の比較の方法
障害年金の額は、あなたが加入していた年金の種類や、障害の重さや家族の有無によって、違ってきます。
そのため、障害年金の額を障害年金の受給が決まる前に正確に予想して、生活保護費と比較することは難しいケースも多いです。
以下が最新の統計による障害年金の受給者の平均額ですので、生活保護費との比較にあたって参考にしてみてください。
▶︎参考:障害厚生年金の等級と受給者の平均月額
障害年金の等級 | 平均受給額 |
障害厚生年金1級 | 月額153,752円 |
障害厚生年金2級 | 月額118,738円 |
障害厚生年金3級 | 月額61,530円 |
障害基礎年金1級 | 月額82,016円 |
障害基礎年金2級 | 月額66,358円 |
3.生活保護費が障害年金より高い場合も、障害年金申請のメリットはある
現在受給中の生活保護費が障害年金よりも高い場合は、障害年金を受給しても、障害年金の額だけ生活保護費が減額されます。その結果、トータルで見れば、毎月の収入が増えることはありません。
しかし、それでも障害年金を申請するメリットはあります。
その理由は以下の通りです。
(1)障害年金は生活保護を終了された後も受給が可能
あなたが働けるようになって収入ができ、それが生活保護が受給できる収入の基準を上回ったときは、生活保護は終了されます。しかし、その場合であっても、病気やけがで仕事に支障がある状態の場合は、障害年金は受給可能です。
また、あなたに遺産相続などにより臨時の財産が入ったときも、生活保護は終了されます。その場合であっても、あなたが病気やけがで働けない場合あるいは仕事に支障がある状態の場合は、障害年金は受給可能です。
このように生活保護受給中に障害年金を申請しておけば、生活保護が終了された後でも、障害年金を受給することができることがメリットになります。
障害年金は生活保護と違い、資産があっても受給できますし、働きながら障害年金を受給することも可能です。
(2)障害年金申請に必要な費用が市町村で負担してもらえることが多い
障害年金を申請するためには病院や医師に書類を書いてもらう必要があります。そして、そのためには通常、病院に診断書料などの文書料の支払いが必要です。
市町村の制度により、生活保護受給中の場合、これら文書料は市町村で負担してくれることが多くなっています。また、障害年金の申請代行を弁護士や社労士に依頼する場合、依頼費用の分についても、実質的に市町村が負担する扱いになっています。
この点については少し複雑なので順を追って説明します。
▶︎参考情報:障害年金申請費用の市町村負担について
まず、障害年金を申請して受給が認められると、申請の月から受給決定が出た月までの障害年金がいったんあなたに支給されます。
しかし、この申請の月から受給決定が出た月までは、あなたは生活保護費ももらっていますので、市町村に対して、あなたは支給を受けた障害年金を返還することが必要になります。
この返還の際に、障害年金の申請代行を弁護士や社労士に依頼したことによる費用は、返還する金額から除外してもらうことができます。
このようなことから、生活保護受給中にあなたが障害年金の申請代行を依頼した場合は、実質的に、あなたは弁護士や社労士への申請代行依頼費用を負担しなくてすむことになります。
このように生活保護受給中は申請に必要な費用を市町村で負担してもらえることもメリットの1つです。
(3)障害年金は65歳までに申請しないと原則としてもらえない
あなたが65歳を過ぎると原則として障害年金は請求できません。
そのため、もしあなたが「生活保護が終了されたら障害年金を申請しよう」と考えていると、生活保護終了時にあなたが65歳を超えていた場合は、障害年金をもらうことができません。
一方、65歳の前に障害年金を申請しておけば、その後障害が軽くならない限り、65歳を過ぎた後も一生障害年金を受給することができます。
そのため、あなたの年齢が65歳に近づいているときは、生活保護が終了された場合のことも考えて、早めに障害年金の請求をしておいたほうがよいです。
最近は市町村が、生活保護費削減のために、生活保護受給者に対して障害年金の申請をすすめるケースも増えています。
障害年金の申請をすると更新の手続きなども必要になり、手間がかかるという面はありますが、上記3つの理由から申請者にとっても申請のメリットはありますので、申請しておきましょう。
▶参考情報:障害年金の申請方法などについては、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
4.生活保護と障害年金の違いを理解し両方のメリットを生かすことがベスト
ここまで生活保護の受給者が障害年金を受給するメリットについてご説明していきました。
生活保護と障害年金は同時受給が可能ですので、「生活保護か障害年金のどちらにするか?」とか「どちらが得か?」というような二者択一的な考え方は適切ではありません。
生活保護と障害年金の2つの制度の違いを理解したうえで、同時受給して両方のメリットを生かして生活を安定させていくことがベストです。
生活保護と障害年金の違いをまとめると以下の通りになります。
▶︎参考:生活保護と障害年金の違い
条件 | 生活保護 | 障害年金 |
支給される場面 |
世帯収入が法律で決められた最低生活費より低い場合。 資産があったり、親族による援助が可能な場合は、まずそれを利用することが必要。 |
病気やけがの状態が続き働けないか、働くことに支障がある場合。 収入や資産があっても原則として受給可能。 |
資産が入った場合 | 生活保護は終了され、資産を売却して生活費に充てることが必要。 | 資産が入っても支給される。 |
収入が増えた場合 | 生活保護が終了されたり、生活保護費が減額になる。 | 収入が増えても支給される。減額もない。 |
親や兄弟からの 援助が可能な場合 |
生活保護は終了になる。 | 援助を受けることが可能な場合でも支給される。 |
受給開始後の報告、 調査など |
毎月収入の状況の報告が必要。 ケースワーカーの訪問調査あり。 |
2年から3年に1度、診断書を提出して更新の審査を受ける。 収入の報告制度は原則としてなし。 |
なお、表のとおり、障害年金は収入が増えても原則として受給可能ですが、例外的に、未成年からの病気やけがによる障害の場合は、障害年金に所得制限があります。
▶参考情報:障害年金の所得制限について、詳しく解説した参考記事は以下をご参照ください。
5.障害年金受給が決まると生活保護費の返還が発生する?
生活保護受給中に障害年金の受給が決まった場合、受給した障害年金の金額の限度で、生活保護費の返還義務が発生することがあります。
この生活保護費の返還制度について、最後にご説明したいと思います。
障害年金の申請方法には何種類かありますが、「遡及請求」という方法を採用して過去の分もさかのぼって障害年金を受給することができる場合があります。
このケースでは、障害年金の受給が決まると、過去の分も含めた障害年金が初回に支給されます。この場合、生活保護費の返還を市町村から求められます。
これは、「障害年金がもらえるのであれば本来は生活保護を受ける必要がなかったから生活保護費を返すべきだ」という考え方によるものです。
ただし、実際に支払われた障害年金の額が生活保護費の返還額の上限ですので、返還額が多くなりすぎてあなたが損をすることはありません。
この生活保護費の返還制度についても知っておいてください。
6.まとめ
今回は、生活保護受給中の障害年金の申請についてご説明しました。
生活保護受給中の場合も障害年金を申請することにはメリットがあることや、2つの制度の違い、障害年金受給決定後の生活保護費の返還制度などについてご理解いただけたと思います。
2つの制度を活用して、あなたの生活を安定させていきましょう。
記事更新日:2023年5月19日
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