障害年金の申請に診断書はなくてはならないものですが、作成を拒む医師は少なくありません。
記入が面倒だからというケースもありますが、もちろん正当な理由があって拒むケースもあります。
この記事では、医師に診断書の作成を拒否されてしまった場合の、その理由別の対応方法などについてご紹介します。
まずは医師がどうして診断書の作成を拒むのか確認して、どうしたら書いてくれるのか、実践してみてください。
1 作成してもらえない理由を確認する
信頼している主治医に「診断書は書きません」と言われて、ショックで理由も聞かず帰ってきてしまった。という方はいませんか?お気持ちはわかりますが、それでは対策のしようがありません。
まずは主治医に、「どうして診断書を書いてもらえないのですか?」と相談してみましょう。
面と向かって聞けない場合は、
- 家族と一緒に通院し、家族の口から切り出してもらう
- 看護師に相談し、医師に確認してもらう
- 病院に在籍する社会福祉士やケースワーカーなどの相談員に確認してもらう
どうして診断書を書いてもらえないのか、患者には理由を知る権利があるはずです。
勇気を出して切り出してみましょう。
2 診断書を書かない理由別4つの対応方法
医師が診断書の作成を拒否する理由として、主に以下の4つが挙げられます。
- 障害年金を受給することで、治療に専念しなくなることを防ぐため
- 不備があった時に非難されることを防ぐため
- 障害年金の診断書を書いたことが無いため
- 忙しいため
これらの理由別に、対策方法もあわせてご説明してきます。
2-1 障害年金を受給することで治療に専念しなくなることを防ぐため
特に精神疾患の診断書を依頼する場合に多いですが、障害年金を受給することで、「仕事や外出をするなどの社会生活に戻る」といった治療の目的を患者が失ってしまう可能性が高い、と医師が考えているケースがあります。
障害年金は一度認定を受けると、症状が改善しない限り支給されます。裏を返せば、症状がよくなる=社会生活に戻るまでは受給できるものです。
そのため、「働かなくても年金が受けられるなら、治療しなくてもいいや。」と思われてしまったり、「収入は安定しているので働きたくありません。」と言われてしまうと、治療を目的としている医師にしてみれば非常に困ってしまいます。
こういった理由を直接患者に伝える医師は少ないですが、主治医は患者と相対するたびに、患者がどんな人なのかよく観察しています。
理由を伝えず、ただ「私には書けない」「忙しい」と突き放す医師も、本当はこんなふうに思っているかもしれません。
対応方法
このような場合は、以下の2つを検討してみましょう。
(1)障害年金が受給できたら、社会生活に戻るための目標を立てると伝える
障害年金が受給できると、収入に関する不安はある程度解消されます。
その間に仕事や社会生活に復帰できるよう、「〇月までに〇〇をする」といった目標を医師と相談しながら立てたいと伝えてみましょう。
医師に「病気が治ること」を望んでいる姿勢を見せること、実践することが重要です。
また、障害年金が受給できた際には医師に感謝を伝え、就労支援事業所に通ったり、運動を習慣づけるといった目標を医師と一緒に立てるようにしましょう。
(2)金銭的な不安から解放されたいと伝える
治療のために仕事を休んでいる場合などは、障害年金を受給することで収入面の不安を楽にしたいと医師に伝えるとよいでしょう。
経済的な不安は病気の治りを妨げることがあるので、そういった不安から解消されたいと伝えることで、病気を治そうと思っている姿勢を医師にしめすことができます。
2-2 不備があったときに非難されることを防ぐため
障害年金の認定がおりない、結果がいつまで経っても出ないといった精神的な不安から、診断書を作成した医師に対して「早く認定してほしい」と訴える患者が少なくないようです。
しかし障害年金は主治医ではなく、年金機構が認定するものですから、訴える矛先が違います。これをなだめることは医師にとって簡単なことではありません。
対応方法
まずはそのような医師の不安を解消すべきです。「うまくいかなくても、そういう場合があることを理解している」と医師に伝えましょう。
医師に「この人には診断書を書いても大丈夫だな」と思ってもらうことが重要です。
【申請に関する不安はどこに訴えるべき?】
障害年金は必要書類が非常に多いので、請求者自身で申請をおこなうと、提出書類に不備がある場合がほとんどです。不備があればその分審査が止まってしまうので、結果が出るのが遅くなってしまいます。
そのようなことを避けるためにも、なるべく家族や友人に申請準備を手伝ってもらったり、障害年金専門の弁護士や社会保険労務士に申請代理を依頼することをおススメします。
また、申請後の審査状況は「障害年金審査状況確認ダイヤル(03-5155-1933)」で確認することができます。
目安として障害年金の請求書類が受付けされた日から3ヶ月程度経過すれば、審査を急いでほしいと、担当者の人へ伝えてもらうことができますので活用しましょう。
提出書類に不備があったときは、年金事務所のお客様相談室や、街角の年金相談センターで不備について相談することができます。
2-3 障害年金の診断書を書いたことが無いため
医師の仕事はあくまでも患者の治療であって診断書の作成ではないため、実際に診断書を作成したことがない医師も多くいます。障害年金を知らない医師も少なくありません。
対応方法
日本年金機構のホームページで、診断書作成のための「留意事項」「記入上の注意」などをダウンロードすることができます。診断書作成の際に注意すべきことなどが記載されているので、医師に渡しましょう。
〇障害年金 年金機構HP
また、精神疾患の方に関しては、日本年金機構から医師宛ての「記載にあたって留意して頂きたいポイント」が出ていますので医師に渡しましょう。
参考までに、精神の障害用の診断書を医師に作成依頼する場合のものを提示致します。
〇「障害年金の診断書(精神)記載要領」(記載にあたって留意して頂きたいポイント)(PDF)
〇「記入上の注意」(PDF)
障害年金専門の弁護士や社労士に相談すると、診断書の記入例を作ってくれる場合もあります。適宜活用してください。
2-4 忙しいため
診断書の作成を何度お願いしても、「忙しい」と言って断られてしまう場合があります。
大きな病院でなくとも、医師は患者の診察、病院の運営、役所や保険会社に提出する診断書の作成、論文や学会の準備などで、休診時間もあわただしく働いていることが多い為、忙しくない医師などいないのかもしれません。
「作成を拒否する理由」を詳しく説明する時間もないので、簡単に「忙しいから」と言うこともあるかとおもいますが、医師法の19条2項にあるように、医師は、正当な理由がなければ診断書の作成を拒むことはできません。
診察もしくは検案をし、又は出産に立ち会った医師は、診断書もしくは検案書または出生証明書の交付の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。「医師法19条2項」
対応方法
さきほど医師法を少しご紹介しましたが、人が急いでいる時に赤信号を渡って「道路交通法を守れ!」と叱られると少しムッとしてしまうのと同じように、お医者さんも医師法を挙げて指摘されると、いい気分ではないはずです。
また、医師が忙しいといって診断書の作成を拒むケースは、ほとんどの場合、「患者のためにならない」「障害年金を知らない」といった他の理由が隠されている場合が多いです。このようなときは、診察など医師と相対している時に、直接「どうして診断書を書いてもらえないのか、納得したいので教えてほしい」と伝えることが重要です。
本当に忙しくて診断書を書く暇がない、というお医者さんには、ひるまず「いつになったら書いてくれるのか」相談してみましょう。
障害年金は認定されれば、申請した月の翌月分から支給されます。そのことをふまえて、なるべく早く申請したいと医師に伝えましょう。
3 医師が診断書を書けないケース
2-4 でご紹介した医師法で、医師は「正当な理由」がなければ診断書の作成を拒否できないとご説明しました。では「正当な理由」とはなんでしょうか。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 診断書を書くためのカルテがない
- 患者の病気が障害年金の認定対象外だから
- 診断書を書くための条件が整っていない
以下で順にご説明します。
3-1 カルテがなくて診断書が書けない
障害年金の診断書は、カルテ(診療録)を基に作成しなければなりません。したがって、カルテがすでに破棄されていたり、病院が異なる場合、医師は診断書を書くことができません。
もしカルテなど「作成の基になるもの」がない状態で診断書を作成し、年金機構に提出した場合、それが露呈してしまうと虚偽診断書等作成の罪に問われてしまいますので、無理強いしてはいけません。(刑法160条)
ただし、診断書を書いてもらえないからといって請求を諦める必要はありません。
「先天性の病気」、「症状が元の状態に戻らないもの」であれば、診断書が出せなくても審査請求や訴訟で認められているケースがあります。
少しでも可能性があるのであれば、障害年金専門の弁護士や社会保険労務士に相談しましょう。
3-2 障害年金対象外の病気
障害年金は申請すれば誰でも受給できるものではなく、日本年金機構が設けている認定基準に該当する障害状態でなければ受給することができません。
ご自身の症状が障害年金の対象疾患かどうかは、年金機構のHPや弊事務所の認定基準の記事をご参考ください。
また、精神疾患で請求を考えている方にご注意頂きたいのですが、人格障害、神経症、薬物乱用による精神疾患は障害年金認定の対象外となっています。
ただしこれらの病気であっても、症状に精神病の病態を示しているのであれば認定の可能性がありますので主治医に相談しましょう。
【人格障害、神経症とは】
パーソナリティ障害、境界性・分裂病型などの人格障害、不安神経症、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、パニック障害、社交不安障害、恐怖症、強迫性障害、心気症、ヒステリー、転換性障害、解離性障害、離人性障害、解離性同一性障害…といった病気を指します。
また、以下の場合も認定の対象外です。これらは一定期間アルコールを摂取していないことを、医師が診断書上で証明しない限り受給することができません。
- 3ヶ月以上断酒していないアルコール性肝硬変
- 急性中毒や身体依存になっていないアルコール依存症
3-3 診断書を書くための条件が整っていない
医師や病院によっては、下記のような理由で診断書を書くことができない場合があります。
診断書を書くために必要な検査機器がない
視野や聴力の検査機器は、診療所、クリニックには設置されていない場合が多いです。
主治医に大きな病院への紹介状を作成してもらい受診しましょう。
診察期間が短くて症状を理解しきれていない
診断書を作成してもらう病院への通院回数が少ない場合に多い理由です。
特に、長期にわたって診察してみないと医師が病気を判断しにくい病気(精神疾患など)、検査記録を診断書に書かなければならない病気(内臓系疾患)で申請する場合に多く見られます。
どうしても、とお願いをして診断書を作成していただいても、症状が実際よりも軽く書かれていたり、不備がある可能性があります。
なるべく医師が指定する期間は通院してから作成してもらうか、前医から紹介状もしくは診療情報提供書を発行してもらい、現在の医師に渡して作成をお願いしましょう。
4 弁護士や社労士を活用する
ここまでで、医師に診断書の作成を拒否されてしまった場合の対策などをお伝えしましたが、「医師にどう伝えたらいいのかわからない」、「また拒否されてしまうかもしれず、怖くて言えない」といった悩みもあるかもしれません。
直接伝えることが難しいようであれば、障害年金専門の弁護士や社会保険労務士に相談しましょう。
障害年金の制度や診断書の重要性について、あなたに代わって医師に説明してくれる場合がほとんどです。
ただし障害年金の代理請求をおこなっている弁護士、社労士が全てこのような対応をおこなっているわけではありません。
有料の場合もあるなどケースによって変わりますので、依頼前に相談しましょう。
5 まとめ
今回の記事では、医師に診断書の作成を拒否されてしまった場合のその後の対応方法についてご紹介しました。
あなたが嫌な事を理由もなくやれと言われて困るのと同じように、やみくもに診断書を書け!と言っても、医師は診断書を書いてくれないことが多いです。
なぜできないのか確認し、その対策を医師に提示することで、「だったら書こうか」と言ってもらうことを目標にしてみましょう。
障害年金は受給できれば最低でも月額5万円を受給することができます。
障害と闘っているあなたにとってとても大きな金額ではありませんか?医師にとって小さなことでも、患者にとっては大きなことだと理解してもらうように伝えてみましょう。
患者団体や病院の方、あるいは報道機関から、この記事を利用したいとのお問い合わせをいただくことがあります。
障害年金の制度を患者の方にお伝えいただく目的で使用いただくのであれば、無償で利用していただいて結構です。
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