もしあなたが20歳から64歳で、心臓疾患のため日常生活や仕事に支障がある場合、条件をクリアすれば障害年金を受給することができます。
受給するためには診断書など必要書類があり、時間と手間を要します。事前にどのような条件で支給されるのか確認したいですよね。
今回の記事では、心臓疾患で障害年金を受給するための条件をご紹介するとともに、実際に申請する際に重要な書類の作成方法などをご説明いたします。
お読みいただければ障害年金の申請前に気を付ける点がわかり、受給への近道になるでしょう!
1 心疾患で障害年金を申請することができる!
心筋疾患や心筋梗塞、大動脈疾患など心臓の機能に関わる病気の症状で、日常生活や仕事に大きく支障が出ている場合は、障害年金を受給できる可能性があります。
受給するには条件があり、以下の2点を満たしていることが必要です。
1.日本年金機構が定めている基準に該当する障害状態であること
2.初診日(病気の症状で初めて病院に行った日)の時点で、一定期間年金を納付(または免除)していること
2章から、この条件について順にご説明いたします。
障害年金とは?
病気やケガなどによって日常生活や仕事に支障が出ている方が受給できる年金です。
申請は20歳から65歳になる前々日までに行う必要があります。
日本年金機構が認定し、支給している国の制度で、年金の納付要件や障害の程度などの受給できる条件を満たしていれば、受給することができます。
障害年金の等級は1~3級で、初診日(病気のために初めて病院に行った日)に加入していた制度や、症状の程度によって該当する等級が変わります。
- 初診日に国民年金に加入していた、または20歳前に初診日がある場合(障害基礎年金):1級もしくは2級
- 初診日に厚生年金に加入していた場合(障害厚生年金):1級、2級、3級、もしくは障害手当金
(共済年金は現在、厚生年金と一元化されています)
2 障害状態の条件
心疾患の障害状態の条件(認定基準)は、「弁疾患」、「心筋疾患」、「虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)」、「難治性不整脈」、「大動脈疾患」、「先天性心疾患」、と別々に分けられています。
それぞれ症状を総合的に判断しての認定基準になるので、以下でご説明する認定基準はおおまかな判断をするためにご確認ください。
症状別の認定基準をご説明する前に、まずは等級が認定基準ですでに決められているものについてご紹介します。
2-1 原則等級が決まっているもの
以下に当てはまる場合は、原則等級が決まっています。ただし、2級、3級に当てはまる状態であっても、上位等級に該当するほどの症状を呈している場合は、上位等級に認定される場合もあります。
また、通常障害年金は初診日から1年6ヶ月経過しないと申請できませんが、それ以前に心臓ペースメーカー、ICD、人工弁を装着した場合は、装着手術をした日の時点で申請できるので、通常よりも早く申請することが可能です。
1級 |
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2級 |
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3級 |
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2-2 検査結果などで決まるもの
続いて、検査結果などで等級が決まる場合についてご説明いたします。
これからご確認いただく項目は、3章でご説明する病態別の認定基準で、あなたがどのくらいの等級に認定されるのか確認するためのものです。
まずは下記の異常所見表をご確認の上、それぞれ当てはまるものがいくつあるのか、主治医に確認してみましょう。
区分 | 異 常 検 査 所 見 |
A | 安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く)の所見のあるもの |
B | 負荷心電図(6Mets未満相当)などで明らかな心筋虚血所見があるもの |
C | 胸部X線上で心胸郭係数60%以上または明らかな肺性脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの |
D | 心エコー図で中度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの |
E | 心電図で、重症な頻脈性または除脈性不整脈所見のあるもの |
F | 左室駆出率(EF)40%以下のもの |
G | BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/mℓ相当を超えるもの |
H | 重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの |
I | 心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの |
続いて、以下は心疾患の臨床所見です。あてはまるものがあるか確認しましょう。
〇臨床所見〇 (1)自覚症状 (2)他覚所見(主治医に確認しましょう) |
最後に、あなたの状態が下記のうちどの状態にあたるか、確認してみましょう。
区分 | 一 般 状 態 | 身 体 活 動 能 力 |
ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、 |
6Mets以上 |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、 (例えば 軽い家事、事務など) |
4Mets以上6Mets未満 |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要な事もあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起きているもの | 3Mets以上4Mats未満 |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は床についており、自力では屋外への外出などがほぼ不可能となったもの | 2Mets以上3Mets未満 |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日横にならなければならず、活動範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの | 2Mets未満 |
「Mets」とは、活動した時に安静時の何倍のカロリー消費をしているか、といった運動量の視標です。
たとえば3Mets以上4Mets未満の活動は、料理、皿洗いはできるが、家じゅうの床拭き掃除など息切れを起こしそうなものはできない状態を指します。
検査・臨床所見や一般状態を確認したら、症状別の認定基準を確認していきましょう。
3 病態別の認定基準
さきほどもご説明していましたが、心疾患の認定基準は症状に合わせて、6つに分けられています。ご自身にあてはまる認定基準で、該当しそうな等級を確認しましょう。
3-1 弁疾患の認定基準
心臓弁膜症(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁に関する病気)の場合は、以下のような認定基準で等級が決まります。
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
1 級 | 病状(障害)が重篤で、安静時においても心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2 級 |
1 人工弁を装着術後6カ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、異常所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの 2 異常検査所見のA,B,C,D,E,Gのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの |
3 級 |
1 人工弁を装着したもの 2 異常検査所見のA,B,C,D,E,Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイまたはウに該当するもの |
なお、複数の人工弁置換手術を受けている場合であっても、原則3級相当になります。
3-2 心筋疾患の認定基準
肥大型、拡張型、拘束型、不整脈原性右室などの心筋症の場合は、以下のような認定基準で等級が決まります。
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
1 級 | 病状(障害)が重篤で、安静時においても心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2 級 |
1 異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの 2 異常検査所見のA,B,C,D,E,Gのうち2つ以上の所見および心不全の病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの |
3 級 (障害厚生年金を受給できる方のみ) |
1 EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表がイまたはウに該当するもの 2 異常検査所見のA,B,C,D,E,Gのうち1つ以上の所見および心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイまたはウに該当するもの |
3-3 虚血性心疾患の認定基準
心筋梗塞、狭心症、冠動脈疾患の場合は、以下のような認定基準で等級が決まります。
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
1 級 | 病状(障害)が重篤で、安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2 級 | 異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの |
3 級 (障害厚生年金を受給できる方のみ) |
異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイまたはウに該当するもの |
3-4 難治性不整脈の認定基準
難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死をひきおこす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにもかかわらず、それが改善しないものをさします。
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
1 級 | 病状(障害)が重篤で、安静時においても常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2 級 |
1 異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの 2 異常検査所見のA,B,C,D,E,Gのうち2つ以上の所見および病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの |
3 級 (障害厚生年金を受給できる方のみ) |
1 ペースメーカー、ICDを装着したもの 2 異常検査所見のA,B,C,D,F,Gのうち1つ以上の所見および心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイまたはウに該当するもの |
3-5 大動脈疾患の認定基準
大動脈瘤や大動脈解離、腹部大動脈瘤の場合は、以下のような認定基準です。
原則3級にしか認定されませんが、周辺臓器への圧迫症状などの合併症の程度や手術の後遺症によっては1級や2級に認定されることもあります。
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
3級 |
1 胸部大動脈解離(Stanford分類A型、B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管(またはステントグラフト)を挿入し、かつ、一般状態区分表のイまたはウに該当するもの 2 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの |
3-6 先天性心疾患の認定基準
障害の程度 | 障 害 の 状 態 |
1 級 | 病状(障害)が重篤で、安静時においても常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2 級 |
1 異常検査所見が2つ以上および病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの 2 Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの |
3 級 (障害厚生年金を受給できる方のみ) |
1 通常検査所見のC,D,Eのうち、1つ以上の所見および病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイまたはウに該当するもの 2 肺体血流化1.5以上の左右短絡、平均肺動脈収縮期圧50mmHg以上のもので、かつ、一般状態区分表のイまたはウに該当するもの |
続いて、もう一つの受給条件である、年金の納付要件についてご説明します。
4 年金の納付要件
生命保険や入院保険などと同じく、年金も保険の一つです。そのため、症状のために初めて病院を受診した日(初診日)までの年金の納付状態が審査されます。(初診日が20歳前の場合は所得額が審査対象になります。詳しくは→「障害年金 20歳前障害の記事に飛ばす」)
以下の条件のうち、どちらかに当てはまれば障害年金の支給対象になります。
初診日の時に、国民年金、厚生年金、共済年金に加入していた方で (1)初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(原則) または (2)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(特例) |
ご自身が上記の納付要件を満たしているか確認してください。
未納期間や免除期間がある場合は、お近くの年金事務所でご相談いただくと確認することができます。
5 障害年金を受給するための3つの重要書類
2章、3章では障害年金が受給できる人の条件についてご説明しました。両方満たしている可能性があれば、障害年金を申請してみましょう。
続いて、障害年金の申請準備にあたって、3つの重要な書類の取り付け方や作成の方法についてご説明していきます。
5-1 受診状況等証明書
「受診状況等証明書」とは、申請する病気の症状で初めて病院を受診した日(初診日)を証明するための書類です。
医療機関で記入してもらいましょう。高血圧や不整脈、喉の痛みなど、心疾患と因果関係がある症状があった場合は、その症状で初めて病院を受診した日が初診日になります。
もしも初診日のある病院で、すでにカルテが破棄されていたり、廃院になっていて受診状況等証明書がとれない場合は、病院の診察券や健康診断時の病院への紹介状、生命保険等の給付申請時の診断書などの参考資料と一緒に「受診状況等証明書が添付できない申立書」という書類を提出しましょう。
この時、参考資料に初診病院の名前、初診日頃の日付の記載があると、初診日が認められやすくなります。
初診日証明について、詳しくは「障害年金の申請に必須!初診日証明の方法と書類の確認ポイントを解説」を参考にして下さい。
5-2 診断書
初診日から1年6ヶ月経過していれば、「循環器疾患の障害用の診断書(PDF)」を主治医に書いてもらいましょう。記入漏れがあると、適正な審査がおこなわれず障害年金を受給できない事もありますので、よく確認してください。
また、心電図で異常がみられる場合は必ずその心電図のコピーが必要です。診断書と一緒に病院からもらい、年金事務所に提出しましょう。
5-3 病歴・就労状況等申立書
「病歴・就労状況等申立書」とは、発病したときから現在までの経過を3~5年に区切って申告するための書類です。
受診状況等証明書や診断書と違い、請求者がみずから作成する書類です。
いままでの病状や日常生活、就労状況について請求者が直接申告できる唯一の書類ですので、下記をご参考にして頂き、具体的に記入してください。
また、診断書と矛盾がないように記載するとなおよいでしょう。
たとえば、診断書表面「⑪循環器疾患」の「I 臨床所見」に咳や痰が自覚症状としてあると記載されているのであれば、それに関する日常的に困っていることとして、「咳や痰がひどく、長く会話が続かない」など記載すると良いでしょう。
受診していた期間について | ・どのくらいの期間、どのくらいの頻度で受診したか |
・入院した期間やどんな治療をして、改善したかどうか (ペースメーカーやステントなどの手術日や、その後の経過) |
|
・医師から言われていたこと(運動や食事の制限など) | |
・日常生活状況 (具体的にどんな症状があって、どう困っていたか。) |
|
・就労状況 (週に何日、1日何時間働いているか。仕事中や仕事後に体調に変化があれば記入する。障害のために生じている仕事の制限や職場での配慮があれば記入する。) |
受診していなかった期間について | ・受診していなかった理由 (服薬で一時的に治った、経済的に行けなかった等) |
・自覚症状の程度 (いつどんな症状がどの程度あったか。) |
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・日常生活状況 (普段通りではなかったことがあれば記入する。) |
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・就労状況 (障害によって仕事に支障がでていたか等を記入する。) |
6 まとめ
今回の記事では、心疾患で障害年金を申請する前に確認すべき認定の基準と、申請時の重要書類を3つ、ご紹介いたしました。
障害年金は申請してから支払いがあるまで半年近くかかる場合もあります。なるべく早めに申請しましょう。
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