誰にでも起こる可能性のあるトラブルの1つが「交通事故」です。
身近な人が交通事故にあったという話を聞くケースも多いのではないでしょうか?
実は、交通事故で保険会社から提示される損害賠償の額は正しく交渉すれば3倍以上になったり、100万円単位で増額することが可能なことがよくあります。これは、保険会社から提示される賠償額が適正額よりも低くなっていることが多いためです。
今回は、万が一交通事故の被害にあってしまった場合の慰謝料交渉術について、わかりやすくご説明します。
あなたやあなたの身近な人が万が一、事故にあったときに、不当に低い補償ですまされてしまうということがないようにするためにも、この記事はぜひ保存しておいてください。
目次
1 保険会社から提示される慰謝料は適正額よりかなり低いことがよくある!
まず、最初にお伝えしたいことは、保険会社から提示される賠償額は適正額よりもかなり低いことが多く、決してうのみにしてはいけないということです。
私は交通事故の被害者の立場で慰謝料の交渉などの仕事を主に行っている弁護士です。
保険会社から提示される賠償額が不当に低いことが多く、しかも被害者がそれを知らないまま了解して示談に応じているケースが多いのを見て、保険会社のやり方に疑問を感じ、被害者の立場で業務に取り組んできました。
交通事故の被害にあうと、保険会社が賠償額を計算して被害者に賠償案を送ってきます。しかし、これまでの経験上、保険会社から提示される賠償案は弁護士が交渉するとかなり増額されるケースがほとんどです。
例えば、実際にあったケースの一例として以下のようなものがあります。
ケース1:胸椎圧迫骨折の被害を受けたケース
保険会社提示の賠償額 408万円→交渉後の賠償額 1250万円(3倍以上に増額)
ケース2:大腿四頭筋部分断裂の被害を受けたケース
保険会社提示の賠償額 294万円→交渉後の賠償額 1176万円(4倍に増額)
ケース3:ひざのじん帯を損傷する被害を受けたケース
保険会社提示の賠償額 397万円→交渉後の賠償額 2311万円(5倍以上に増額)
このように弁護士が交渉すれば、3倍以上に増額されることもめずらしくありません。これは逆に言えば、保険会社が、適正額の3分の1以下の金額を賠償額として提示してきているということでもあります。
では、どのような点に着目すれば保険会社の賠償案を増額して適切な補償を得ることが可能になるのでしょうか?以下で増額交渉のときにポイントとなることが多い点をご紹介していきたいと思います。
2 痛みが残っている場合は必ず後遺障害申請する!
まず、1つ目のポイントとして覚えておいていただきたいのが、「交通事故後6か月たっても痛みが残っている場合は必ず後遺障害の申請をするべき」という点です。
あなたが交通事故でけがをした場合、その慰謝料は、あなたが治療が終わった段階で初めて決まります。そして、むちうちや骨折のけがでは、治療に6か月以上かかることが多く、6か月たっても痛みが残っているときは慰謝料について保険会社と合意する前に、後遺障害の申請をすることが重要なポイントになります。
交通事故では、後遺症について、「自賠責損害調査事務所」
という専門の機関が審査する仕組みがあります。これが「後遺障害申請」と呼ばれる手続きです。そして、審査の結果、あなたの症状が後遺症に該当するという結論が出た場合は、賠償額が後遺症がない場合に比べて3倍以上に増えることがよくあります。
このように「後遺障害申請」の手続きは、あなたが正当な補償をうけるために非常に重要なのですが、実は、保険会社からはその案内自体がされないことも少なくないのです。
後遺障害は、骨折などの被害にあった場合だけでなく、むちうちで痛みが残っているような場合でも、申請すれば認められることは多いです。そのため、保険会社から案内をされなくても、交通事故後に6か月治療をしても痛みがまだ続いている場合は、保険会社から特に案内がなくても、後遺障害申請をすることをおすすめします。
この後遺障害申請には、加害者側の保険会社を通じて申請を行う「事前認定手続き」という方法と、自賠責調査事務所に直接資料を提出する「被害者請求手続き」という方法があります。加害者側の保険会の関与なく手続きが行える「被害者請求手続き」を選択することがおすすめです。
後遺障害申請手続きについてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
3 ごまかされやすい3つのポイントをチェックする。
後遺障害申請の結果が出れば、保険会社から賠償額の提示があるのが通常です。交通事故の賠償金にはさまざまな項目があり、賠償金はその合計額から成り立っています。提示を受けた場合はその内訳をよく確認しなければなりません。
特によく確認していただきたいのは以下の3つの項目です。
- 休業損害
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
以下で順番に見ていきたいと思います。
3-1 休業損害の項目のチェックポイント
休業損害というのは、交通事故によるけがで仕事を休んだ場合にあなたに支払われるお金です。
この休業損害については以下の点をチェックして下さい。
有給休暇の日も休業損害は支払われる。
休業損害を請求できる場面の典型としては、あなたが交通事故によるけがで仕事を休み、その日の給与が支払われなかった場合があげられます。
しかし、交通事故によるけがが原因で有給休暇をとったときも、保険会社に対して休業損害の支払いを請求することができます。
本来は自由に取得できた有給休暇を交通事故をきっかけに使ってしまったことに対して補償をうけることができるのです。
この有給休暇取得日の休業損害については、保険会社から十分な説明がないことが多いです。保険会社から賠償の提示を受けた際は、有給休暇についての休業損害も支払われているかをよく確認してください。
専業主婦にも休業損害は支払われる。
次に、もし被害者が専業主婦の場合でも、休業損害は本来支払われなければならないことを覚えておいてください。
交通事故でむちうちや骨折のけがをしたときには、治療期間中、家事に支障が出ますので、それに対しての賠償をしなければならないことになっています。
例えば、専業主婦の方が交通事故でむち打ちの被害にあって6か月間通院したというようなケースでは、交渉をすれば休業損害だけで100万円近く支払われるケースは少なくありません。
しかし、保険会社は、被害者が専業主婦の場合は、休業損害を賠償額の計算の対象から勝手に外していることが非常に多いです。
あなた自身が専業主婦の場合はもちろんですが、あなたの家族が専業主婦の場合も、この点はぜひ覚えておいてください。
3-2 後遺障害慰謝料の項目のチェックポイント
後遺障害慰謝料というのは、交通事故によるけがで後遺症が残ったときにそれに対する慰謝料として支払われるお金です。
交通事故によるけがの後遺障害については、重いほうから1級から14級までに分類されています。そして、この分類に応じて、後遺障害慰謝料が、裁判所の判例で「相場」が事実上、以下のとおり、決まっています(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編集「民事交通事故訴訟・損害賠償算定基準」2017年参照)。
後遺障害の等級 | 保険会社の提示額の例 | 判例での相場 |
1級の場合 | 1100万円 | 2800万円 |
2級の場合 | 958万円 | 2370万円 |
3級の場合 | 829万円 | 1990万円 |
4級の場合 | 712万円 | 1670万円 |
5級の場合 | 599万円 | 1400万円 |
6級の場合 | 498万円 | 1180万円 |
7級の場合 | 409万円 | 1000万円 |
8級の場合 | 324万円 | 830万円 |
9級の場合 | 245万円 | 690万円 |
10級の場合 | 187万円 | 550万円 |
11級の場合 | 135万円 | 420万円 |
12級の場合 | 93万円 | 290万円 |
13級の場合 | 57万円 | 180万円 |
14級の場合 | 32万円 | 110万円 |
もちろん、保険会社も判例での相場は知っていますが、保険会社は、相場よりもずっと少ない金額を提示してくることが大半です。この後遺障害慰謝料についても、知らないとごまかされてしまいますので要注意です。
3-3 後遺障害逸失利益の項目のチェックポイント
チェックポイントの3つ目として、後遺障害逸失利益という項目についてご説明したいと思います。
後遺障害逸失利益とは、あなたが仕事をしている場合に、交通事故の後遺症で仕事が以前のようにできなくなったことに対する補償として支払われるお金です。
「仕事が以前のようにできなくなった」というとかなり重い後遺症を想像される方もいると思いますが、むちうちで痛みがのこって仕事に支障が生じるといったケースについても、後遺障害逸失利益を請求することが可能です。
この後遺障害逸失利益については以下の点をチェックしてください。
年数をよく確認する。
後遺障害逸失利益で問題になるのが、「将来の仕事への支障に対する補償が何年分支払われているか」です。
この点について、判例などを前提にした正しい年数は以下の通りです。
原則 | 事故の治療を終えた日からあなたが67歳になるまでの年数 |
骨折の痛みなど | 7年から10年程度 |
むちうちによる痛みなど | 3年から5年程度 |
基本的には、後遺症というのは、一生続くものですから、上記の表のように、事故の治療を終えた日からあなたが67歳になるまでの分を補償するというのが、裁判所の判例の原則です。
定年が60歳の企業も多いと思いますが、裁判所は67歳までという考え方を採用しています。
例えば、あなたが35歳なら、32年分の後遺障害逸失利益が請求できますので、後遺症の程度によっては1000万円を超える額になることもあるでしょう。
ところが、保険会社は、この後遺障害逸失利益の年数を勝手に10年とするなど、本来よりも少なくして賠償額の提示をしてくるケースが多いです。年数を減らされると賠償額も当然大幅に減りますので、要注意です。
ただし、67歳までという考え方については例外もあり、例えば、むちうちの場合は、上の表のように3年から5年程度とされています。こういった例外はありますが、基本は「67歳までの年数について後遺障害逸失利益が認められていなければおかしい」ということをおさえておきましょう。
主婦の場合も後遺障害逸失利益は請求できる。
もう1つ覚えておいていただきたいのが、被害者が主婦の場合も後遺障害逸失利益が請求できるという点です。主婦は家事をしていますが、交通事故の後遺症でいままでどおり家事ができなくなることがあります。そのため、主婦も後遺障害逸失利益は請求できます。
例えば、主婦の方が、むちうちで後遺症が残り、家事がいままでどおりできないというケースでは、本来であれば後遺障害逸失利益の部分だけでも75万円程度になることが多いです。しかし、保険会社からの提示ではこれがすっぽり抜け落ちた提案がされているケースがあるので、注意が必要です。
4 【補足】交通事故の被害にあったときにもらえる可能性のあるそのほかのお金
次に、補足になりますが、交通事故にあったときにもらえる可能性のあるそのほかのお金についてもご紹介しておきたいと思います。
4-1 労災保険からの支給
まず、あなたが通勤中や勤務中に交通事故にあった場合は、保険会社からの賠償とは別に、労災保険からもお金が下りるケースが多いです。特に覚えておいていただきたいのは、労災には「特別支給金」という制度があることです。
例えば、あなたが通勤中や勤務中に交通事故にあって仕事を休まなければならない場合、労災から「休業特別支給金」という補償を受けることができます。この休業特別支給金はあなたの給料の額のおよそ2割にあたる額です。
そして、この休業特別支給金は、あなたが相手の加害者の保険会社に、休業損害の請求をしていたとしても、それとは別に請求ができる制度になっています。
そのため、利用することによるメリットが大きい制度ですが、あなたが申請をしないともらえませんので、ぜひ覚えておいてください。
4-2 無保険車傷害特約による支払い
次に、あなたの交通事故の相手が自動車保険に加入していなかった場合のことをご説明します。
自賠責保険は法律上加入が義務付けられていますが、任意保険は法律上加入義務がありません。
そのため、私もこれまで、「交通事故の被害にあったが相手が任意保険に加入しておらず困っている」というご相談をお受けしたことがたびたびありました。
このような保険に加入していない相手との交通事故のケースで思い出してほしいのが、無保険車傷害特約という制度です。
無保険車傷害特約とは、交通事故の相手が保険に加入していない場合に、自分や自分の家族が加入している自動車保険に対して、本来加害者が支払うべき賠償金の請求ができる制度です。
この無保険車傷害特約については、事故があったときも保険会社から案内がないことが多く、自分で気づいて請求しなければ、支払われないままになってしまうことがありますので、ぜひ覚えておいてください。
なお、この特約については基本的に以下の内容になっていますのでおさえておきましょう。
ポイント1:家族が加入している場合も使える!
被害者本人が無保険車傷害特約付きの自動車保険に加入していた場合だけでなく、被害者の家族が無保険車傷害特約付きの自動車保険に加入していた場合でも利用できることになっているケースがほとんどです。
ポイント2:歩いていて事故に遭った場合でも使える!
無保険車傷害特約は、自動車に乗っていて交通事故の被害にあった場合だけでなく、歩いていて事故にあった場合や自転車に乗っていて事故にあった場合でも利用できることがほとんどです。
この無保険車傷害特約は、交通事故の加害者が保険に加入していなかった場合にはぜひ使うべき制度です。
4-3 障害年金
最後に、障害年金という国の制度についてご説明したいと思います。
もし、あなたが交通事故に遭い、重い後遺症が残ってしまった場合、障害年金という年金が国から支給される制度があります。これは、あなたに後遺症が残ってしまい、仕事に大きな支障が生じたり、あるいは仕事ができなくなった場合に、国から毎月支給される年金です。
支給金額は症状の程度や家族の有無などによって、異なり、毎月5万円から多い場合は20万円くらいもらえるケースもあります。
この障害年金も、重い後遺症が残ったときに生活を支えてくれる大変重要な制度ですが、あまり知られておらず、いざ必要な場面でも案内されることが少なくなっています。障害年金という制度があることをぜひ頭の片隅においておいてください。
障害年金については、以下の記事で詳しくご説明しています。
障害年金について詳しく知りたい方は、こちらもぜひ参照してみてください。
▷国民年金の障害年金制度の内容、対象者、もらえる金額のまとめ
5 交通事故に備えて今準備しておくべきことは?
最後に、交通事故に備えて、今あなたが準備しておいたほうがよいことについてもご説明しておきたいと思います。
5-1 弁護士費用特約制度への加入がおすすめ!
交通事故の被害にあってしまった時に強い味方の1つとなるのが弁護士費用特約制度です。
これは、あなたが交通事故の被害にあったときに、相手保険会社との交渉あるいは裁判等を弁護士に依頼する場合の弁護士費用を、あなたが契約している保険会社が負担してくれる制度です。
交通事故の被害に遭ってしまった場合、この記事でもご説明したように、相手の保険会社からは本来の正当な賠償額よりもわずかな金額しか提示されないことがほとんどです。
そのため、今回の記事を参考に交渉することが必須ですが、この交渉をプロの弁護士に任せたい場合は、弁護士費用特約に加入しておくと、費用を気にしなくて済みます。
加入の方法としては、主に以下の3通りがあります。
- 自動車保険に加入しているがその特約として弁護士費用特約に加入する方法
- 火災保険や医療保険に加入している人が、その特約として弁護士費用特約に加入する方法
- 弁護士費用保険単体で加入する方法(プリベント少額短期保険株式会社など)
弁護士費用特約制度は、わずかな保険料を支払っておくことでいざというときの弁護士費用の負担をカバーできる大変メリットのある制度なので、ぜひ加入を検討してみてください。
5-2 無保険車傷害特約に加入済みかも要チェック!
弁護士費用特約のほか、さきほどご紹介した無保険車傷害特約もぜひ加入しておきたい制度です。
この無保険車傷害特約に入っていない場合、保険に加入していない車との交通事故で被害に遭ってしまったときに、最悪のケースでは、後遺症が残ったのに何も補償をうけられなくなるという悲惨な事態になる危険があります。
保険に加入していない車との交通事故の危険も考えて、無保険車傷害特約に加入しておくことは非常に重要です。
この無保険車傷害特約は、自動車保険とセットで加入する必要があります。
自動車保険に加入している方は、自分が加入している自動車保険に無保険車傷害特約が付いているかどうか、チェックしておくことをおすすめします。
6 まとめ
今回は、まず最初に、保険会社から提示される慰謝料はかなり低いことが多いという点をご説明し、それを踏まえて賠償額を増額するための交渉の方法についてご紹介しました。
そのうえで、交通事故の被害にあったときにもらえる可能性のあるそのほかのお金や、交通事故に備えて今準備しておくべきことについてもご説明しました。
あなたが万が一、交通事故にあってしまったときは、ぜひ今回の記事を読み返してみてください。