インターネット上の著作権の問題、正しく理解できていますか?
先月に株式会社ディー・エヌ・エーがMERYを再開しました。しかし、昨年にキュレーションメディアによる著作権侵害が大きな問題になったことは記憶に新しいところです。
今回は、ネットにかかわる人にはぜひ知っておいていただきたい、インターネット上の著作権のルールについて、特に誤解が多い点を中心にわかりやすく解説します。
自分が侵害しないため、侵害されないためにも、この機会に著作権のルールを確認しておきましょう。
目次
1 他人のコンテンツの「引用」が認められるケースはごく一握り
著作権に関するルールで良く誤解されている点が、「引用であれば他人のコンテンツを使ってもよい」という考え方です。
確かに、著作権法32条1項という条文で、「引用であれば他人の著作物を許可なく使ってもよい」ことになっています。
そのためか、引用元のURLさえ記載しておけば、他人の著作物を許可なく使ってよいと誤解しているのではないかと思われるケースが多数見受けられます。
しかし、法律的には、「引用」はごく一握りのケースしか認められていません。
例えば、以下のようなケースは引用が認められる場合にあたらず、許可なく他人のコンテンツを使用することは著作権侵害にあたります。
【ケース1】
自社でオリジナルのコンテンツを作る気がないのに、自社のWebサイトへのアクセスを増やす目的で他人に著作権のある画像やテキストを無断で転載するケース
【ケース2】
自社のWebサイトを見やすくしたり、あるいは自社の記事をネットユーザーの目にとまりやすくする目的で、他人に著作権がある画像を無断で転載するケース
では、引用が認められるのはどのようなケースなのでしょうか?以下で詳しくご説明していきたいと思います。
1-1 著作権法で認められている「引用」とは?
著作権法上、「引用」は、「引用者のオリジナルのコンテンツを発信するために他人の著作物の引用が必要不可欠な場合」にのみ認められます。
これをキュレーションメディアにあてはめると、「引用は、キュレーションメディア自体のオリジナルのコンテンツを発信するために他人の著作物の引用が必要不可欠な場合」にのみ認められます。
具体的には他人のテキストや動画についてメディア運営者においてオリジナルのコメントを加え、キュレーションメディア自体のオリジナルのコンテンツとして発信するようなケースに限り、合法的な「引用」にあたります。
このルールは他人の著作物の引用を認めた著作権法32条1項にも次のように規定されています。
著作権法32条1項
『公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。』
この条文の後半部分が、引用に関するルールを定めています。
この著作権法第32条1項が定める引用のルールはより詳細に見ると、4つのルールにわけることができます。以下で、1つずつ見ていきましょう。
2 他人の画像やテキストを引用する場合に注意しなければならない4つのルール
他人の画像やテキストを「引用」により無許可で使用できるのは、以下の4つのルールをすべて満たす場合に限られます。
2-1 ルール1:引用されているコンテンツがメインではないこと
引用が合法とされるためには、「分量的にも内容的にも、自社のオリジナルのコンテンツが主であり、引用されているコンテンツが従であること。」が必要です。
キュレーションメディアにあてはめれば、キュレーションメディア自体のオリジナルのコンテンツが「主」であり、引用されているコンテンツが「従」でなければなりません。
この点に関して裁判で問題になったケースとして以下のものがあります。
【事例1】
サッカーで有名な中田英寿さんの中学生時代の詩を無断で「引用」し、「中学の文集で中田が書いた詩。強い信念を感じさせる」という簡単なコメントをつけて掲載したケースが、著作権侵害にあたるとして訴訟になった事例です。
裁判所は、掲載の目的は詩の紹介自体にあり、オリジナルのコメント部分が主になっていないとして、著作権侵害を認定しました(東京地裁平成12年2月29日判決)。
この事例は、書籍において中田英寿さんの詩が引用されたケースですが、キュレーションメディアにおいてもこの裁判例のルールはあてはまります。
メディア自体のオリジナルのコンテンツの部分が分量的にわずかであったり、説明書き程度で、他人のコンテンツを引用している部分のほうが多いというケースでは、正当な「引用」にはあたりません。このようなケースでは、仮に引用元を記載していたとしても、著作権侵害にあたるのです。
2-2 ルール2:批評、講評のために引用の必要があること
引用が合法とされるための2つ目のルールとして、引用が合法とされるのは、「引用の必要がある場合」に限られます。
「引用の必要がある場合」とは、他人のコンテンツを引用したうえで、それについて批評、講評、コメントするなどして、自社のオリジナルのコンテンツとして発信するような場合です。
たとえば、以下のようなケースは、仮に引用部分がメインでなくても、そもそも「引用の必要がある場合」にあたらず、無断使用は著作権侵害になります。
【ケース1】
キュレーションメディアがアクセスを集めるためだけの目的で他人のコンテンツを転載するケース
【ケース2】
自社の訪問者の目を引く目的でアイキャッチ画像やイメージ画像として他人の画像を無断で使用するようなケース
アクセスを集めたり、訪問者の目を引く目的であれば、自社でオリジナルのコンテンツを作れば済むことです。他人のコンテンツを転載する必要はありませんので、無断転載すれば違法になります。
2-3 ルール3:引用部分とオリジナル部分が明確にわかれていること
引用に関する3つ目のルールとして、引用が合法とされるためには、引用部分がオリジナルの部分と明確に区別されていることが必要です。
引用部分についてまで、あたかも引用者のオリジナルのコンテンツであるかのように見えてしまうような転載方法は、正当な「引用」にはあたりません。
2-4 ルール4:引用元が明記されていること
最後に4つ目のルールとして、引用が合法とされるためには、引用されているコンテンツの出典を明記する必要があります。Webサイトからの引用の場合は、Webサイト名とURLを明記することが必要です。
以上ご説明した4つのルールをすべて守った場合にのみ、「引用」が合法となります。この中でも一番重要なのは、「ルール2」の「引用の必要があること」です。
「引用」というのは、他人のコンテンツについてオリジナルのコメントを加えて批評・講評することを指しており、それ以外の目的で他人のコンテンツを無断で転載することは著作権侵害になることを理解しておきましょう。
2-5 【補足】埋め込み式リンクは著作権侵害にはならない
ここまで「引用」についてご説明してきましたが、注意していただきたいのは、いわゆる「埋め込み式リンク」は著作権侵害にはならないという点です。
「埋め込み式リンク」とは、ネット上にアップロードされている他人の画像や動画をコピーして転載するのではなく、リンクを貼ることにより、リンク元ウェブサイト上で閲覧できるようにすることです。
この埋め込み式リンクの方式は、リンク先のサーバに負荷がかかるなどの問題がありますが、著作権侵害にはあたらないとされています(平成25年6月20日大阪地方裁判所判決)。
このような結論になるのは、著作権が基本的に無断コピーを禁止する権利であることによります。
ネット上にアップロードされている他人の画像や動画をコピーすれば無断コピーに該当しますので著作権侵害にあたりますが、埋め込み式リンクであればコピーしていないので著作権侵害にあたらないのです。
したがって、一見すると、自分のコンテンツが不正に引用されているように見えたとしても、埋め込み式リンクであれば著作権侵害には当たらないこともおさえておきましょう。
3 他人のテキストを「無断で修正して使用」は高額賠償の対象
著作権に関するルールで良く誤解されているもう1つの点が、「他人のテキストでも修正して使用すれば著作権侵害にはあたらない」という誤解です。
この点については、修正(リライト)の結果、オリジナルのテキストと類似しない程度にまで修正されている場合は、確かに著作権侵害にはあたりません。
しかし、リライトしたが、リライト後のテキストがオリジナルのテキストと類似していると判断されるケースでは、著作権侵害にあたります。
著作権法上、全く同じテキストを使用することだけでなく、類似しているテキストを使用することも著作権侵害にあたるためです。
しかも、このような無断で修正して使用するケースは、場合によっては、そのまま使用すること(デッドコピー)よりも罪が重く高額な賠償請求の対象となる可能性があります。
その理由は、テキストや画像の著作者は、「無断でテキストや画像を修正されない権利を」持っており、修正することがこの権利の侵害にあたる可能性が高いためです。
この「無断で修正されない権利」は、「著作者人格権」という、厳密には著作権とは別の権利になります。他人のテキストを無断で修正して使用することは、著作権侵害と著作者人格権侵害の両方にあたる可能性があるのです。
3-1 リライトしたテキストの掲載について110万円の賠償を命じた裁判例
他人のテキストの無断修正が裁判で問題になったケースの1例として以下のものがあります。
【事例2】ビジネス書のリライトや要約をネットに掲載したことについて110万円の損害賠償を命じたケース
この事件は、Webサイト上に多数のビジネス書の要約やリライトを掲載し、Webサイトの有料会員を募ったケースです。
引用されたビジネス書の著作権者らが著作権侵害にあたるとして、Webサイトの運営者を訴えました。裁判所は、リライトの際に著作権者に無断で修正を加えていることは、著作権侵害のみならず著作者人格権の侵害にもあたると判断し、110万円の損害賠償を命じています(東京地方裁判所平成13年12月 3日判決)。
参考までに、この事件で、リライトが著作権侵害に当たるとされた箇所の1例をあげると次の通りです。
オリジナルの文章
熱意を持てば成功する。
松下が中小企業の経営者の方々を対象に「ダム経営」について話したことがある。ダム経営というのは、川にダムをつくり水を貯めるように、企業も余裕のある経営をしようという松下の持論であった。話が終わって、四百人ほどいた経営者の中の一人が手をあげ質問をした。「おっしゃるとおりなのですが、なかなかそれができないのです。どうすればダムがつくれるのでしょうか」これに対して松下は「やはりまず大切なのは、ダム経営をやろうと思うことですな」と答えた。
リライトされた文章
熱意を持てば成功する
中小企業の経営者を対象に「ダム経営」について松下が話したことがあった。余裕をもった経営という意味である。話が終わって、一人の経営者が質問した。「どうすればダムが造れるのでしょうか」。これに対する松下の答えは「まず、ダム経営をやろうと思うことですな」であった。
この例をみると、リライトにより、オリジナルの文章の言いまわしが修正されていますが、裁判所はこのようなケースも著作権侵害、著作者人格権侵害にあたると判断しています。
この事例からもわかるように、他人のテキストを切り貼りしたり、順番や言い回しを変えて無断で利用するケースは、場合によっては、著作権侵害、著作者人格権侵害にあたりますので注意が必要です。
他人のテキストを参考にすること自体が禁じられているわけではありません。しかし、他人のテキストを、自身のオリジナルの内容を盛り込まずに、単に修正して無断で利用すると、結果的に参考にした他人のテキストと類似している結果になるケースも多く、著作権侵害にあたる可能性が高いです。
3-2 ありふれた表現については著作権がない
テキストに関する著作権侵害についてもう1つおさえておいていただきたいのが、「ありふれた表現については著作権がなく、無断でコピーしても著作権侵害にはならない」というルールです。
これは、著作権というのは一定の創作性(オリジナリティ)がある表現を保護して、その無断コピーを禁止する権利を認めるものであり、そもそもオリジナリティがないような表現については対象にならないからです。
過去の裁判でも、以下のように著作権はないとして、無断コピーしても著作権侵害にはならないと判断された事例があります。
【事例3】法令の内容をまとめた図について著作権を認めなかったケース
この事件は法令の内容をまとめた以下の図について、無断でコピーされたとして著作権侵害を理由とする損害賠償請求がされたケースです。
裁判所は、この図について、「条文に従い、手続きの流れに沿って整理し要約して記載されたものにすぎず、創作性が認められない」として著作権を認めませんでした(平成7年5月16日東京高等裁判所判決)。
著作権が認められなかった図
【事例4】アクセス情報についての説明文について著作権を認めなかったケース
ガイドブックのテキストなどが無断でコピーされたとして著作権侵害を理由とする損害賠償請求がされたケースです。
裁判所は、テキストのうち以下の部分については、「誰が記載しても異なった記述になり得ないものは、著作物性を認めることができない」として著作権侵害の主張を認めませんでした(平成13年1月23日東京地方裁判所判決)。
著作権が認められなかったテキスト部分
「JR中央線・総武線で東京から、特別快速二四分、快速二八分、各駅停車三 七分。新宿から特別快速一一分、快速一五分、各駅停車一八分。中野から特別快速 七分、快速・各駅停車一一分、地下鉄東西線(総武線に乗入れ)で一一分。」
そのほか、例えば、料理のレシピなどについても、レシピの書き方というのはある程度決まっている面がありますので、ありふれた表現として著作権が認められないケースが多いと考えることができます。
著作権で問題になるのはあくまで表現(テキスト)の創作性であり、仮に料理自体が創作的なものであっても、レシピとしての表現方法に創作性がなければ著作権が認められることはありません。
このように、テキストをコピーされたことについて著作権侵害と主張する場合は、テキスト自体に創作性があり、著作権が認められるかどうかについても検討しておく必要があります。
4 もし自分の著作権が侵害されたら?
最後にもし自分の著作権がインターネト上で侵害されているのに気づいたらどうすればよいのでしょうか?以下でご説明していきたいと思います。
4-1 まず、著作権の侵害を主張するかどうかの判断が必要
まずは、著作権侵害について指摘して、他人による掲載をやめさせることが自分のメリットになるかを考えなければなりません。
自分のコンテンツがメディアに掲載されるということは、仮にそれが無断転載であっても、ネットユーザーの目に触れやすくなるということを意味しており、そのことがあなたにメリットをもたらしていることもあるからです。
例えば、熊本県のキャラクター「くまもん」は、個人がフェイスブックやLINE、あるいは個人ブログにくまもんのイラストを使用することについては、著作権を問題にせず、自由に利用することを認めたことで、多くのファンを獲得しています(くまもんオフィシャルホームページ参照 ただし、「©2010熊本県くまモン」の表記が義務付けられています)。
また、任天堂は、個人が、任天堂に著作権があるゲーム画面の画像を撮影して実況中継する「ゲーム実況」について、一部のものを除いて正式に許諾する方針をとっています。
これはゲーム実況が著作権の侵害にあたるものの、ゲームの認知度をあげるという面で任天堂にメリットがあることに着目したものです。
このように、著作権を主張しないことが最終的にクリエイターにとってもメリットになることがありますので、まずは著作権侵害を主張するかどうかの検討をしましょう。
4-2 著作権侵害を主張する場合の主張方法
検討の結果、転載があなたにとってデメリットであり、やめさせたい場合は、あなたはあなたの著作権に基づき「無断転載されたコンテンツの削除」や「損害賠償の請求」を転載者にすることが可能です。
コンテンツの削除のみを求める場合
もしあなたが求めるものが「コンテンツの削除」だけであればメディアの問い合わせフォームやメールなどで著作権侵害に該当することを通知し、削除を求めることで、通常は、削除を実現することが可能です。
損害賠償の支払いも求める場合
一方、コンテンツの削除だけでなく、損害賠償の支払いまで求める場合は、内容証明郵便などの手段を使って請求することが一般的です。
ただし、もしあなたが著名なクリエイターであったり、創作性が高いコンテンツを転載されたというわけでなければ、日本ではネット上の著作権侵害について高額な賠償が認められるケースは多くありません。
参考として、家具販売で有名なイケアのウェブサイトに掲載されている商品画像や商品の説明テキストを大阪の買い物代行業者が無断転載した事例では、画像について1点あたり1000円、テキストについて1点あたり5000円の損害賠償が命じられています(平成27年1月29日東京地方裁判所判決)。
著作権の侵害にあたるかどうかについての正確な判断や適切な請求額の判断は難しく、内容証明郵便などによる損害賠償請求の前に著作権に強い弁護士に相談することをおすすめします。
copytrackについて
最近は、画像を無断転載された場合の著作権侵害に対応するサービスとして、copytrackというサービスも登場しています。
このサービスを利用すれば、画像の転載について、ネット上の手続きだけで、しかも成功報酬制で転載者に対して利用料の請求をすることが可能です。
利用料は、転載者からcopytrackを通じて獲得した利用料の30%から50%となっています。
さらに、copytrackでは、あなた自身が発見した画像の無断転載につてい利用料を請求するだけでなく、copytrackにあなたの画像を登録することで、あなたの画像を転載しているサイトを発見し、一覧表示することも可能なサービスになっています。
このようなサービスを利用する人が増えれば、ネット上での安易な無断転載はなくなっていくかもしれません。
ただし、現段階では、このサービスは、画像の削除請求には対応していないため、画像の削除を希望する場合は、copytrackによる手続きは難しく、あなたあるいはあなたの弁護士から転載者に通知して削除を求める必要があります。
5 まとめ
今回は、インターネット上の著作権のルールについて、特に誤解が多い「引用」のルールと、「リライト」の問題点についてご説明しました。
著作権侵害をしてしまうと、賠償請求などのペナルティはもちろんですが、著作権侵害をきかっけにブログやメディアが炎上し、閉鎖に追い込まれることもあります。
Webサイトでの投稿やブログ、メディアの運営は、著作権について正しく理解し、ルールを守って行うことが必要です。