病気やけが、あるいは、うつなどのメンタルヘルスの問題で仕事を休まなければならない場面は誰にでも起こりえます。
就職してから定年まで、一度も大きなけがや病気がなく働き続けられる人のほうがむしろ少ないかもしれません。
では、病気やけがで働けない場合のお金のやりくりはどうすればよいのでしょうか?
今回は、あなたが病気になって働けないときにもらえるお金について、公的な制度を中心にご紹介します。
また、いざというときにスムーズにお金の支給を受けるために日ごろから気を付けておくべきことについてもご説明します。
今回、会社員が病気やけがで働けないときにもらえるお金として、ご説明するのは以下の4つです。
- 傷病手当金
- 障害年金
- 労災の休業給付
- 医療保険や所得補償保険
この4つを把握しておけば、病気やけがで働けなくても、あなたが完全に無収入になることは避けることができます。
以下で概要をご説明していきますが、病気やけがで長期間働けないときに、最初に気になるのは、現在の会社を「くび」にならないかどうかではないでしょうか?
そのため、4つのお金のご説明に入る前に、まずは、病気やけがであなたが働けなくなったときに、あなたの会社が、何をしてくれるのか、見ておきましょう。
1 多くの会社では休職制度はある
多くの会社では社員が病気やけがで働けない場合のために、休職制度が設けられています。
休職制度というのは、「休職期間中は仕事に来なくても解雇しません。」という意味です。
そのため、この休職期間中は、仕事ができなくても解雇はされません。
休職期間は会社が自由に決めることができ、3か月くらいの短い期間としている会社から2年などの長い期間としている会社など様々です。
休職期間は就業規則に書かれていることが多いので確認してみましょう。
1-1 休職期間中は無給の会社がほとんど。
このように休職期間中は解雇はされませんが、その期間は無給であることが通常です。
休職期間中も給料を支払ってくれる会社もありますが、一部の福利厚生が充実した企業に限られています。
休職期間中の給料についても、通常は就業規則に書かれていますので確認してみましょう。
就業規則に「休職期間中は無給とする。」などと書かれている場合は、休職期間中解雇はされませんが、給料は支払われません。
2 働けないときにもらえる4つのお金
それでは冒頭でご紹介した4つのお金について順番に見ていきましょう。
2-1 傷病手当金
会社員が病気やけがで仕事ができなくなった場合には、まず有給休暇を使用することになります。
有給休暇の期間中は、給料全額が会社から支払われます。
そして、有給休暇を使い切った後に請求できるお金として覚えておいておきたいのが、「傷病手当金」という制度です。
健康保険から、1年6か月間、給料の6割程度が支給される。
傷病手当金の制度は、会社員が病気やけがで仕事ができなくなった場合に、健康保険から毎月お金が支給される制度です。
1年6か月間という期間限定ですが、給料の6割程度が支給されます。
スムーズに傷病手当金を請求するためには会社との関係性が重要。
傷病手当金の請求では、会社にあなたが病気で仕事を休んでいることを証明する書類を記載してもらうことが必要です。
この書類を会社に記載してもらえなければ、本来、傷病手当金をもらえる場面でも、もらうことができません。
また、傷病手当金の請求手続き自体も通常は、会社の人事担当者があなたに代わって行います。
そのため、いざというときに、スムーズに傷病手当金を請求できるようにするためには、日ごろから会社の人事部など傷病手当金請求の際にお世話になる部署と良好な関係をつくっていと良いでしょう。
病気や休職をきかっけに会社とトラブルになってしまい、傷病手当金の請求に支障が生じるケースがありますので、注意しましょう。
2-2 障害年金
傷病手当金が支給されるのは1年6か月間だけです。
1年6か月が経過しても、まだ仕事ができない場合は、「障害年金」という制度があります。
障害年金は、病気やけがで仕事ができない人がもらえる年金です。
一般の年金とは違い、若い人ももらうことができます。
この制度は案内される機会も少ない制度ですので、いざというときに思い出せるように覚えておいてください。
毎月8万円から12万円くらいが支給される。
障害年金の支給金額は、家族がいるかどうかや、病気やけがの重さによって変わってきますが、毎月8万円から12万円くらいになることが多いです。
障害年金は年金事務所に申請することになります。
この障害年金は傷病手当金と違って期間の制限がなく、病気が回復しなければ、一生もらうことができる制度です。
スムーズに障害年金を申請するためには医師との関係性が重要。
障害年金をスムーズに申請するためには、まず、医師との関係性が重要です。
あなたの主治医が作成した診断書が、あなたの申請が認められるかどうかの重要なカギを握ります。
そして、この障害年金の診断書は書く場所が多く、医師によっては嫌がる人も多いです。
いざというときに、丁寧に診断書を書いてもらえるように、主治医との関係を常に良好に保っておきましょう。
「医療費のお知らせ」は残しておく。
いざというときに障害年金をスムーズに請求するために、もう一つ覚えておいてほしいのが、「医療費のお知らせ」を必ず保管しておくということです。
健康保険から、毎年2月頃に、「医療費のお知らせ」という封筒が届きます。
これを捨てないで残しておくと、障害年金の請求の時に、大変役に立ちます。
障害年金の請求では、あなたの過去の通院の履歴を詳しく申告することが必要になるからです。
これまで捨ててしまっていた人も、いざというときのために、今後はぜひ保管するようにして下さい。
年金の未納がないようにしておく。
障害年金の申請では、健康な時期に年金をきちんと納付していたかどうかが審査されます。
例えば、障害年金を申請する病気で初めて病院にかかったときからさかのぼって1年間に年金の未納があると、障害年金が受給できなくなるケースがあります。
そのため、日ごろから年金について未納がないようにしておくことは大変重要です。
会社に勤務している期間は厚生年金を納付しているため問題はありませんが、会社を退職したときなどに次の就職までの間の期間中も国民年金をきっちり支払っておきましょう。
たった1か月の年金の未納が原因で、障害年金が一生請求できなくなることもあります。
2-3 労災の休業給付
あなたの病気やけがが、通勤中の事故や会社の業務が原因であるときは、労災の「休業給付」という制度があります。
労災の休業給付も、傷病手当金と違い、期限がありません。
休業して治療することが必要な期間中は支給されます。
給料の8割程度が労災から支給される。
労災の休業給付の支給額は、給料の8割程度の額になります。
労災の休業給付は、期間の点でも、金額の点でも、傷病手当金よりも有利です。
病気やけがが通勤中の事故や会社の業務が原因であるときは、労災の休業給付を申請しましょう。
なお、労災の請求についても、会社の人事担当者に手続きを代行してもらうケースがほとんどです。
そのため、労災の関係でも、会社の人事担当者と良好な関係を保つことは大切です。
2-4 医療保険や所得補償保険の保険金
ここまでは病気やけがで働けないときにあなたを支えてくれる公的な制度についてご説明しました。
これらの公的な制度に加えて、もし、あなたが民間の医療保険や所得補償保険に入っているときは、保険金を請求することができます。
医療保険であれば、加入内容によりますが、例えば以下のような保険金が支払われるケースが多くなっています。
- 入院1日あたり1万円から3万円程度
- 手術をした場合20万円から60万円程度
また、所得補償保険に入っている場合は、さらに、就労不能給付金が支払われます。
所得補償保険というのは、あなたが病気やけがで働けないときに、あなたが無収入になるのを避けるために一定の保険金を支払ってくれる保険です。
支給される就労不能給付金の金額は、保険に加入するときにあなたが自分で設定した金額になりますが、月額20万円あるいは30万円といった金額を設定することが通常です。
あなたが家族を養う立場にある一家の大黒柱であるときは、傷病手当金や障害年金だけでは家族を養うことができませんので、健康なうちに所得補償保険に加入しておくことをおすすめします。
3 病気やけがで働けないときもすぐに退職してはいけない2つの理由
最後に、4つのお金の説明からは外れますが、あなたが病気やけがで働くことができず、職場への復帰のめどがたたないような場面でも、会社を退職することは慎重にしたほうがよいです。
それには以下の2つの理由があります。
3-1 理由1:退職すると傷病手当金が出なくなることがある。
退職を慎重にしたほうが良い理由の1つは、傷病手当金が支給される1年6か月の期間中に退職してしまうと、まだ1年6か月の期間の一部が残っていても傷病手当金が支給されなくなるケースがあるためです。
法律上の細かい条件はここでは省きますが、概要として、あなたが病気やけがで働けなくなって退職する場合に、その職場で健康保険に加入してから1年がたっていなければ、退職後は傷病手当金が支給されない可能性が高いです。
そのため、あなたが傷病手当金を受給中で、その職場で健康保険に加入してから1年がたっていないときは、退職は特に慎重になったほうが良いです。
3-2 理由2:働けないことを理由に退職した場合は失業保険は対象外。
退職を慎重にしたほうが良い理由の2つ目ですが、職場への復帰のめどがたたないことを理由に退職する人の中には退職すれば失業保険がもらえると誤解している人がいます。
しかし、失業保険は、働ける状態にあるのに仕事がないときに、就職活動をしていることを条件にお金が支給される制度です。
そのため、あなたが病気やけがで働けないことを理由に退職した場合、失業保険の支給を受けることはできませんので注意しましょう。
ただし、退職後に病気やけがから復帰して働くことが可能になったときは、ハローワークで手続きをすれば、仕事が決まるまでの期間中は失業保険をもらうことが可能です。
4 まとめ
今回ご説明した4つのお金について表で整理すると以下のようになります。
もらえる場面 | もらえる期間 | もらえる金額例 | 請求先 | |
傷病手当金 | 病気やけがで4日以上会社を休んだ場合 | 1年6か月間 | 給料の約6割 | 健康保険 |
障害年金 | 病気やけがで働けない場合 |
期間制限なし (場合によっては一生もらえる) |
月8万円~12万円程度 | 年金事務所 |
労災保険 | 通勤中の事故や会社の業務による病気やけがが原因で働けないとき | 休業して治療が必要な期間中 | 給料の約8割 | 労働基準監督署 |
所得補償保険 | 病気やけがで働けない場合 | 保険加入時に設定した期間(例:20年など) | 月20万円~30万円が通常 | 保険会社 |
どのお金も請求しなければもらえません。
請求には期限がありますので、忘れないようにしましょう。
また、いざという時にこれらの制度をスムーズに利用するためには以下の点を日頃からおさえておいてください。
- 会社の人事部との関係を良好に保つ。
- 主治医との関係を良好に保つ。
- 健康保険から郵送される「医療費のお知らせ」は保管しておく。
- 仕事をやめたときも年金の未納がないようにしておく。
- 家族を養う立場の人は、民間の所得補償保険に加入しておく。
何事も「転ばぬ先の杖」、健康な時の日ごろの備えがいざというときに役に立ちます。
今回は、会社員が病気やけがで働けないときにもらえるお金について解説しました。
最後に、「貯金」も、病気やけがで働けないときの心強い味方です。
病気やけがはいつでも誰にでも起こりえますので、突然の病気やけがであわてないためにも、日ごろから貯金をしておきましょう。
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