障害年金と労災の給付の併給調整について徹底解説

障害年金と労災の給付の併給調整
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仕事や通勤が原因の病気やケガで後遺症が残った時、私たちの生活を支えてくれる制度の1つに障害年金と労災年金があります。しかし、この2つの制度、実は併給調整があるって知っていましたか?

今回は、この2つの給付の仕組みと賢く受給するためのポイントをご紹介します。

 

1.障害年金の等級と労災の等級は対応していない

まず前提として知っておいていただきたいのは、障害年金と労災が全く別の制度であることです。障害年金は日本年金機構が審査を行い給付するもので、労災は厚生労働省労働局が管轄し、審査・給付するものです。

それぞれの制度が別の基準で判定されており、その審査項目も障害年金と労災では異なっています。労災の等級が1~14級まであるのに対し、障害年金の1~3級となっており、それぞれの等級は対応しているものではありません。

そのため、労災で等級に認定されているからといって障害年金を受給できるわけではありません。障害年金は障害年金でまた別に申請をする必要があります。

また、労災と障害年金をそれぞれ申請して給付を受けられることになった場合、実はどちらからも全額給付を受けられるわけではありません。

ここからは障害年金と労災給付の併給調整についてご説明します。

 

2.障害年金と労災給付の併給調整

結論からいうと、障害年金と労災の両方から給付を受けることができる場合は、どちらからも全額受け取ることができるわけではなく、労災からの給付が減額されて支給されることになります。

これを障害年金と労災年金の「併給調整」といいます。

ここからは、障害年金と労災の給付がどのように調整されるのかをご説明します。

 

(1)同一傷病で障害年金と労災年金を受給できる時は労災の給付が減額される

受給する障害年金の種類によってどの程度、労災の給付が減額されるかが決まっています。労災の給付の減額率は下記の表の通りです。

 

▶参考:同一傷病での障害年金と労災年金給付の減額率一覧

障害年金の種類 労災の減額率
障害厚生年金・障害基礎年金
(初診日に厚生年金に加入、障害年金の等級が2級以上に認定された場合)
0.73(27%減額)
障害厚生年金
(初診日に厚生年金加入、障害年金の等級が3級だった場合)
0.83(17%減額)
障害基礎年金
(初診日に国民年金加入、障害年金の等級が2級以上の場合)
0.88(12%減額)

 

ただ、労災からの給付の全てが減額の対象となるわけではありません。

労災では、仕事中や通勤中の怪我が原因で後遺障害が残った場合、その障害の程度に応じて1~14級までの等級が定められており、等級に応じて給付金や給付金額が決まっています。

 

▶参考:障害等級毎の労災年金給付内容の一覧

等級 給付内容
障害等級が1~7級 ・障害補償給付(年金)
・障害特別支給金
・障害特別年金
障害等級が8~14級 ・障害補償給付(一時金)
・障害特別支給金
・障害特別一時金

 

この内、障害年金との調整の対象となるのは、「障害補償給付」のみです。その中でも、労災の障害等級が1~7級の方が受け取る障害補償年金のみが調整の対象で、8~14級は障害補償一時金のため調整の対象にはなりません。

 

▶参考:労災の給付内容の表における調整対象

労災による調整対象の表

 

障害年金の等級や支給額は申請してみないとわからないというのが正直なところですが、ご自身の労災がどのくらい減額になるのかおおよその目安がわかるのではないでしょうか。

最大で0.73の調整率は小さいものではありませんが、減額するにあたっては調整された後の労災年金と障害年金の合計額が、調整前の労災年金の額よりも少なくなることがないよう調整されます。

そのため、労災年金が減額されたからといって損をすることはありません。

 

(2)20歳前障害による障害基礎年金は支給停止になる

ただし、例外的に障害年金が支給停止になってしまうケースがあります。それが、20歳前障害による障害基礎年金と労災の障害補償年金を受給できる場合です。

20歳前障害による障害基礎年金とは、年金保険に加入できない20歳より前に初診日(病気やケガのために初めて病院に行った日)がある障害で障害基礎年金を受給しているケースです。

この場合に限っては、労災の給付が優先され、労災からの給付を受けると障害基礎年金が全額支給停止になってしまいます。

 

(3)要注意!労災の一時金を受け取ると障害手当金はもらえない

労災では8~14級に該当した場合、労災一時金を受け取ることができます。この一時金は2章でご説明した通り、障害年金との調整で減額の対象にはなりません。

ただ、この一時金を受け取った場合、受け取ることができなくなる給付があります。それが障害手当金です。

障害年金では障害年金が支給される障害の程度に応じて1~3級(障害基礎年金は1.2級のみ)の等級が設けられていますが、実は3級にも満たない障害の場合は、一時金として障害手当金が支給されるケースがあります。

この障害手当金は、労災の一時金を受け取った場合は残念ながら受け取ることができません。

 

▶参考情報:障害年金の一時金(障害手当金)について詳しくはこちらの記事もご参照ください。

障害年金の一時金とは?あきらめるのはまだ早い、受給資格と申請方法

 

 

(4)別傷病の場合は併給調整されない

労災年金と障害年金の併給調整が行われるのは、あくまでも同一傷病で支給される場合のみです。別の傷病で労災年金と障害年金がそれぞれ支給される場合は、調整は行われません。

 

例)通勤中の事故が原因の身体障害で障害補償年金を受給中の方が、全く関係のない心臓疾患で障害年金を受給する場合
→どちらも全額受け取ることができます。

 

以上が、障害年金と労災年金の併給調整の仕組みです。

 

3.まとめ

今回は、障害年金と労災年金の併給調整について説明しました。

同一傷病で障害年金と労災年金の両方から給付を受けられる場合、労災からの給付が一部、一定の割合で減額されます。
ただ、調整の対象となるのは労災の等級が1~7級の方に支給される労災年金(障害補償年金)だけで、労災の等級が8~14級の方は一時金のみの給付のため調整の対象にはなりません。

また、減額されたとしても、障害年金の支給額と減額後の労災年金の合計額が減額前の労災年金の額よりも少なくなることのないよう考慮なれていますので、受給者が損をすることはりません。

ただ、障害年金の申請は複雑で、必要書類も多く、申請のためにかかる労力は少ないものではないため、もし、障害年金を受給できたとしても調整後の支給額が変わらないのであれば、手間をかけてまで申請をするメリットは大きくありません。

労災年金の減額率や自分の症状の程度では障害年金の何級に該当しそうか、該当した場合、どのくらいの額が受給できそうかを一度計算した上で、調整後の支給額が大きくなりそうであれば申請することをおすすめします。

障害年金も労災年金も、予期せぬ病気やケガの際に私たちの生活を支えてくれる心強い制度です。
上手に利用しましょう。

 

記事更新日:2023年3月9日

 

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  • この記事の監修者
  • 西川 暢春
  • 西川 暢春

    弁護士法人
    咲くやこの花法律事務所
  • 出身地:奈良県 出身大学:東京大学法学部卒業。事務所での精神疾患、知的障害、身体障害に関する障害年金の相談経験、請求実績を活かし、障害年金に関する情報を継続的に発信中。
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