障害年金の請求が審査請求や再審査請求でも認められなかった場合、裁判を検討することになります。
でも、裁判というのは具体的なイメージがわかないことも多いですよね。
障害年金の裁判のポイントは不支給になった理由ごとに整理して理解すればわかりやすくなります。
今回は、障害年金の不支給について裁判をしたほうがよいケースを3つにわけて、それぞれのポイントをご説明します。
また、裁判を起こす場合の実際の流れや費用の目安についてもご紹介します。
それでは見ていきましょう。
目次
1 障害年金の裁判とは?
障害年金の裁判は、障害年金を申請して不支給だった場合に、裁判手続きで、国に対して不支給の決定の取り消しを求める手続きです。
障害年金の申請をして不支給だった場合、以下のように、まずは、審査請求、再審査請求という不服申し立ての手続きを行い、それでも不支給の結果が変わらない場合に裁判に進むことが通常です。
不支給決定→審査請求→再審査請求→裁判
なお、下記のように審査請求の後に再審査請求を行わずに裁判に進むことも可能です。
不支給決定→審査請求→裁判
ただ、再審査請求で結果がくつがえることも多いため、再審査請求は行ったうえで裁判に進むことをおすすめします。
裁判は審査請求または再審査請求の結果が出てから6か月以内に行うことが必要です。
2 裁判を検討したほうがよい3つのケース
障害年金の不支給の結果について裁判を検討したほうが良いケースとして以下の3つのケースがあります。
ケース1:初診日がわからないことを理由に不支給とされた場合
ケース2:障害認定日の診断書がないことを理由とする不支給の場合
ケース3:障害の程度が軽いと判断された場合
以下でケースごとに見ていきましょう。
3 初診日がわからないことを理由に不支給とされた場合
裁判を検討すべきケースの1つ目は、初診日がわからないことを理由に不支給とされた場合です。
年金機構の審査は、書面審査であり、初診日についても、文書による資料のみが対象となります。
しかし、裁判では、実際にあなたの話やあなたの通院状況をよく知る家族や友人などの話を裁判官が聴いて、初診日を判断します。
そのため、年金機構の書面審査では初診日がわからないことを理由に不支給とされた場合でも、裁判での請求であれば認められる可能性が十分あります。
3-1 裁判準備のポイント
裁判では、初診日を証明するための資料を証拠して提出することがポイントです。
提出を検討すべき証拠として以下のものがありますので、弁護士に相談しながら準備していきましょう。
- 過去に通院した病院のカルテや診断書
- 過去に障害者手帳や医療保険の請求を行ったことがある場合はその資料
- 先天性の障害の場合は母子手帳
- あなたの通院の経緯をあなた自身が詳しく記載した陳述書
- あなたの通院状況について知っていて初診日について証明してくれる第三者の陳述書
ここでいう「陳述書」というのは自分が見聞きした内容を記載して署名捺印した文書です。
あなた自身が陳述書を出すことはもちろんですが、できれば、あなたの通院状況について知っている第三者の陳述書も提出するようにしてください。
3-2 裁判による成功事例
実際の裁判による成功事例の1つとして、網膜色素変性症という目の病気について裁判で初診日を認めてもらい、障害年金の受給が可能になったケースがあります(平成27年4月17日東京地方裁判所判決)。
この事例では、以下の点が決め手となりました。
・請求者が結婚にあたり目の検査を受けたところ網膜色素変性症の診断を受け、縁談が破断になったというエピソードを請求者が法廷で具体的に話したこと
・縁談の相手を紹介した請求者のいとこも、請求者が網膜色素変性症の診断を受けて縁談が破談になったことを証言したこと
このようにあなたが過去のエピソードと関連付けて初診日を明確に覚えていて、しかもそれについてあなた以外の第三者も証言に協力してくれるというようなケースでは裁判を検討することをおすすめします。
4 障害認定日の診断書がないことを理由とする不支給の場合
障害が先天性のものであったり、幼少期からの障害である場合、現在の年金機構の判断では、障害認定日である20歳のときに通院していなければ、遡及請求を認めてもらうことは困難です。
しかし、裁判では、障害認定日の診断書がなくても、あなたが20歳の時の障害の状態を証明できれば、遡及請求を認めてもらうことが可能です。
4-1 裁判準備のポイント
障害認定日時点での障害の程度について証拠を提出して主張していくことがポイントです。
提出を検討すべき証拠として以下のものがあります。弁護士に相談しながら準備を進めていきましょう。
- 過去に通院した病院のカルテ
- 過去に作成された診断書
- あなたの障害認定日時点での症状の程度についての医師の見解を記載した意見書
- あなたの障害が固定的なもので症状が変化するようなものでない場合は、それに関する医学文献等
- あなたの障害の程度や推移について説明するあなたの陳述書
- あなたの家族などがあなたの障害の程度や推移について説明した陳述書
4-2 裁判による成功事例
実際の裁判による成功事例の1つとして、幼少期から難聴の障害があったが、20歳のときに通院しておらず診断書が書いてもらえなかったというケースについて、遡及請求を認めた裁判例があります(平成23年1月21日神戸地方裁判所判決)。
この事例では、以下の点が決め手となりました。
- 幼少期に身体障害者手帳を申請し、聴力障害の3級にあったと診断されていたこと
- 医師が請求者の聴力について小学校から現在まで同レベルであると述べていること
障害には、よくなったり悪くなったりと症状に変動があるものと、症状に変動がなく障害の内容が固定しているものとがあります。
症状に変動があるもの(例えば統合失調症など)について、裁判で遡及請求を認めてもらうためには、障害認定日当時のカルテなどで障害認定日のころの症状を証明することが必要になります。
一方、障害の内容が固定していて変動がないようなケースでは、変動がないことを証明すれば、障害認定日も現在の障害の程度と同じだったはずだといえますので障害認定日当時のカルテがなくても遡及請求が裁判で認められる可能性があります。
5 障害の程度が軽いと判断された場合
年金機構の審査で障害の程度が軽いと判断されてしまい不支給になった場合でも、裁判で裁判官が障害の程度を判断した結果、支給が認められるケースがあります。
また、不支給にならなくても適切な等級よりも低い等級が認定されてしまった場合でも、裁判で結果がくつがえり、より高い等級が認められるケースがあります。
5-1 裁判準備のポイント
障害の程度が重いことを主張していくことがポイントです。提出を検討すべき証拠として以下のものがありますので弁護士に相談しながら準備していきましょう。
- あなた自身が障害による日常生活への支障について詳細を記載した陳述書
- あなたの生活状況をよく知る家族などがあなたの日常生活の状況を記載した陳述書
- あなたの症状が記載された病院のカルテ
5-2 裁判による成功事例
実際の裁判による成功事例の1つとして、頸椎症性脊髄症による身体障害について、年金機構では等級に該当しないと判断されたが、裁判所では3級が認められたというケースがあります(平成28年1月21日東京地方裁判所判決)。
裁判所は、請求者は仕事はしているが、会社内での机上作業が主体で、長時間の歩行ができないなど日常生活にも支障をきたしていることを重視して3級に該当すると判断しています。
6 障害年金についての訴訟手続きの実際の流れ
障害年金について訴訟(裁判)を起こす場合の実際の流れは次の通りです。
「弁護士に相談」→「訴状を提出」→「書面による主張や証拠の提出」→「尋問手続き」→「判決」
以下で順番にご説明していきたいと思います。
6-1 弁護士に相談
まずは、訴訟を起こした場合の勝訴の見込みについて弁護士に相談することが必要です。障害年金に詳しい弁護士に相談していただくことをおすすめします。
6-2 裁判所に訴状を提出
訴訟を起こすことになったら、不支給決定の取り消しを求める訴状を裁判所に提出します。裁判所は以下の3つからいずれかを選択することができます。
選択肢1
あなたが障害年金の申請を提出した年金事務所または市町村を管轄する裁判所(例えばあなたが神戸市内の年金事務所に障害年金の申請をした場合は神戸地方裁判所)。
選択肢2
あなたが住んでいる地方の中心都市の裁判所(北海道在住の場合は札幌地方裁判所、東北在住なら仙台地方裁判所、中部地方在住なら名古屋地方裁判所、近畿地方在住なら大阪地方裁判所、中国地方在住なら広島地方裁判所、四国地方在住なら高松地方裁判所、九州地方在住なら福岡地方裁判所)
選択肢3
東京地方裁判所
通常は、選択肢1の「あなたが障害年金の申請を提出した年金事務所または市町村を管轄する裁判所」に提出するのが最も近くて便利です。
6-3 書面による主張や証拠の提出
訴状を提出した後しばらくは書面によるやりとりが中心になります。
訴状に対して国側の反論がありますので、それに対して請求者側から再反論を行います。
再反論では、請求者側から不支給の判断をくつがえすための資料を証拠として提出することがポイントになります。
ケース別の裁判準備のポイントでご説明した資料などを提出していきましょう。
6-4 尋問手続き
書面による主張や証拠の提出が一通り終わると、尋問手続きが行われます。
尋問手続きは、裁判所が、あなたや、あなたの通院状況あるいは障害の推移をよく知っている関係者(証人)を呼んで法廷で話を聴く手続きです。
裁判で請求を認めてもらうためには、この尋問手続きで、不支給の決定はおかしいと裁判所に判断してもらうことが必要になりますので、しっかり弁護士と打ち合わせをしてのぞみましょう。
6-5 判決
裁判手続きの最後は判決が言い渡されます。判決により不支給が取り消されれば、あなたは障害年金の支給を受けることができます。
7 障害年金で裁判を起こす場合の費用について
最後に障害年金で裁判を起こす場合の費用についてご説明しておきたいと思います。
裁判手続きは非常に複雑かつ専門的な手続きですので、障害年金に精通した弁護士に依頼することが必要です。
そして、弁護士に依頼する場合の費用は、弁護士によってそれぞれです。ご参考までに筆者が所属する咲くやこの花法律事務所における弁護士費用は以下の通りとなっています。
- 相談料 30分5000円(税別)
- 裁判所に納める実費 2万円程度
- 着手金 裁判の内容に応じて35万円(税別)~
- 報酬金 勝訴したときは結果に応じて事前に契約書により定めた額
このように裁判にかかる費用は、主に「相談料」「裁判に納める実費」「着手金」「報酬金」の4つがあります。
依頼する弁護士に費用の内容をよく確認し、事前に費用についての契約書を作成してもらうようにしてください。
8 まとめ
今回は障害年金の支給が認められなかった場合に検討することになる裁判について概要をご説明しました。
裁判は多額の費用もかかるため、事前にしっかりと弁護士に相談して、勝訴の見込みの程度について説明をうけたうえでスタートすることが重要です。
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